□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン2011年3月28日発行 第208号 ■ ================================================================== 「朽ちていった命―被曝治療83日間の記録 (新潮文庫) 」 ================================================================== 今度の福島原発事故を通じて、みずから目にし、人から教えられて、 私は様々な事を知った。 これまで殆ど無知であった放射能物質の非人間性を知った。 その事を一番良く知っていなければならない唯一の被爆国である 日本国民が、まさしく私もそのひとりであったのだが、それに気づか ないまま生かされてきたことを知った。 原発開発の裏にある、あまりにもすさまじい政府、官僚、業界、 御用学者、メディアたちの癒着を知った。 その癒着が、原発に関するあらゆる不都合を国民から隠蔽し、 原発に代わるあらたなエネルギー開発の努力をことごとく潰して きたこを知った。 公共料金と言う名で国民から徴収する、その膨大な利益で、接待 づけ、天下り受け入れなどを繰り返して来た東電の顔を知った。 その甘味に群がったこの国の支配階級たちの厚顔を知った。 市民派の菅直人政権もまたそれを克服できない事を知った。 そして何よりも、それらすべての膨大な情報がネットや雑誌で 流されるようになった今でも、大手新聞やテレビは一切その事に触れ ないこと、それが今回の福島原発事故でも繰り返されている事を 知った。 その反国民性は、もはや権力犯罪とでも呼ぶにふさわしい悪だ。 しかし、今度の福島原発事故に関して私が知った断片的な情報の 中で、私がもっとも衝撃を受けたのは東海村臨界事故によって致死量 の放射線を浴びて死んでいった35歳の作業員のことである。 この事が今日のメルマガのテーマである。 そして私は今、これまで書いてきたどのメルマガよりも厳粛な思い でこのメルマガを書いている。 これまで書いてきたどのメルマガよりも強い怒りと悲しみでこの 文章を書き綴っている。 自分の息子と同じ年頃のこの若者の死の記録を涙なくしては読めない。 NHKのドクメンタリーを綴った「朽ちていった命―被曝治療83日 間の記録 (新潮文庫)はいまこそ国民が必読すべき記録だ。 NHKはこのような素晴らしいドキュメンタリーを作成していたのだ。 核燃料サイクル開発機構の高速実験炉「常陽」で使うウラン燃料の加工 作業員だった大内久は、最後のウラン溶液を同僚が流し込み始めたとき 事故にあう。 パシッという音とともに青い光を見た。臨界だ。その瞬間、放射線の中 でも最もエネルギーの大きい中性子線が大内の体を突き抜けた。 東大病院にかつぎこまれた時には、目に見える外傷もなく元気そうで 看護師たちを意外に思わせたほどだったが、それから多臓器不全で亡く なるまでの83日間、大内は家族の目の前で放射能によるすさまじい細胞 破壊と戦うことになる。 染色体が破壊され新たな細胞がつくられない。リンパ球はなくなり、 免疫力が失われ、出血と体液流出がとまらず、激痛が続く。 被爆者が受けた地獄の苦しみもこのようなものだったに違いない。 それでも大内はすぐに死なせてもらえない。世界各国から招かれた被曝 医療の専門家たちにとっては放射線医学のこの上ない研究対象だ。 大内自身が、まだ意識があり、言葉を話すことができた時期に、こう 何度も叫んでいたとナース記録にあるという。 「こんなのはいやだ。このまま治療もやめて、家に帰る。帰る。」、 死後も大内の苦しみは続く。犯罪と死因との関係を明らかにするための 司法解剖が、被爆で死んだ大内の体に行われる。最期までモルモットと して扱われたのだ。 そして、大内と一緒に作業していて被曝したもう一人の作業員篠原も、 被曝から211日目に死亡する。 いまこそ我々は彼らの死を無駄にしてはいけない。 人間が見つけた核物質の非人間性を、もう一度人間の手で葬り去ら なければならない。 そこまで意識を高め、我々日本人は今、それを世界に発するのだ。 それが我々日本人の責任である。 大内らの死を無駄にしないせめてもの我々の義務であると思う。 了
天木直人のメールマガジン ― 反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説
天木直人(元外交官・作家)