□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン2011年2月10日発行 第93号 ■ ============================================================= トヨタリコール問題の決着に見る対米配慮 ============================================================== 2月8日ラフード米運輸長官が記者会見で「トヨタ車は安全に運転 できる」と宣言し、これを受けて、トヨタがすかさず「調査結果を歓迎 する」とのコメントを発表した。 これが2009年以来大騒ぎを続けたトヨタリコール問題の終焉である。 言いたいことが多々あるだろうトヨタが矛を収めた事は理解できる。 その事は次のメルマガで書く。 ここで取り上げたいのは、日本政府の対応であり、この問題の決着を 報じる日本の大手メディアの姿勢である。 あの事件が起きた時、私はメルマガやブログでなぜ日本政府はトヨタを 擁護しないのか、と書いた。 私はトヨタという会社、とりわけ小泉首相の最大のパトロンであった 奥田会長のトヨタの傲慢さを好まない。 しかしその事と今度の事件でトヨタ側に立つ事とは別だ。 トヨタは日本を代表する企業だ。トヨタの打撃で被害を受ける従業員や 関連企業は多々ある。 何よりも当時報じられた事件の因果関係には大きな疑義があった。 米国政府や議会の政治的動きもあからさまだった。 少なくとも日本政府は日本企業を信じ、事件の公正な真相解明を米国に 求めるぐらいの事はすべきだった。 それなのに日本政府はトヨタを突き放した。 メディアもそれを書かなかった。 その態度は今回の米国の調査結果の報告に接しても見事に繰り返されて いる。 日本政府の発言は聞かない。あたかも米国を刺激したくないという配慮 がありありだ。 日本政府にもまして日本の大手メディアが書かない。 日本政府と違ってメディアは政治的配慮を排し、国民の声を代弁すべき であるはずなのに、である。 もちろんこれだけの大ニュースである。2月10日の各紙ともそれを報じ てはいる。 しかし、私が言っているのは、米国の不当な日本叩きではなかったのか、 という米国追及の姿勢が見られないということである。 それらしき言及は随所に見られる。しかしどこか腰が引けている。 この問題を社説で正面から取り上げたのは産経だけだ。 「あの騒ぎはなんだったのか」という見出しの下で、米議会、米政府に 反省を求めるとともに、事実関係を調べて米側に反論しようとしなかった 日本政府にも文句を言っている。 日米同盟重視を謳いながら、その一方で反米保守を隠し通せない正直な 愛国産経の面目躍如である。 毎日新聞の社説もこの問題を取り上げていた。 しかしその内容はおかしい。米国の訴訟社会に言及し、危機管理の重要さ を書くばかりだ。 その他の新聞は社説で取り上げることすらしなかった。これだけの大きな 問題の決着であるにもかかわらず。 このトヨタリコール事件とその幕引きは、図らずもこの国の政府、 メディア、財界が、米国に対しては、言うべきことも言わない、言えない ことを証明してくれた。 中国やロシアに対しては、「悪しき隣人」だとか、「許しがたい暴挙」だ とか、この国の指導者達が臆面もなく強硬になることと比べ、あまりにも 対照的である。 了
天木直人のメールマガジン ― 反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説
天木直人(元外交官・作家)