□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン2011年2月8日発行 第87号 ■ ============================================================= 核兵器に反対する者が原子力発電所の建設に鈍感である矛盾 ============================================================== 核兵器には強く反対する者でも、原子力発電所建設には鈍感な者 が多い。 実は私もその一人だった。 原子力の平和利用は国際的に認められている。 電力需要の増大に対応するには原子力発電は必要だ。 火力発電所と違ってCO2も出さない。 なによりも原子力発電所は武器にはなりえない。 漠然とそう思い込んでいた。 勿論、原子力発電所にも大きな欠点がある事は知っている。 事故が起きた時の危険性は甚大だ。ゴルバチョフソ連首相が 米国との核軍縮に合意したのはチェルノブイル事故の犠牲を 目の当たりにしたからだという説がまことしやかに伝えられた事が あった。 また核廃棄物の処理は深刻な問題だ。 その廃棄物からでるプルトニウムは核兵器の原料である。技術力が あればすぐに核兵器がつくれる。 だからこそ、北朝鮮やイランがいくら原子力発電所だ、核の平和利用だ、 と言っても誰も信用しないのだ。 それでも、これらの欠点は十分に克服できると原子力発電擁護者は言う だろう。 それらの欠点を補って余りある有益性が原子力発電にはあると言う だろう。 私が原子力発電に疑問を持ち始めたのは、日本の電力需要は、なにも 原子力発電に頼らなくても十分供給能力がある、と知った時からだ。 そんな日本が、世界最多の原子力発電所を持っている事を知って驚いた。 なぜ日本にそれほどまでに原子力発電所が必要なのか。 建前とは別に本当の理由があるはずだ、と思うようになった。 加えて、日本は地震国だ。大丈夫か。 しかも、日本がテロに狙われたり、ミサイル戦争に巻き込まれるように なったら、原子力発電所は格好の標的になる。 日本のような国土が小さく人口密度の高い国が、国内に多くの原子力 発電所を持つようでは、安全保障政策の上で大きな弱点を抱える事になる。 そう考えていくうちに、原子力発電所の建設がまるで当然のように進め られてきた事に疑問を抱かざるを得なくなった。 それでも地震や戦争はそう簡単に起こらない。そんな心配をすれば何で も危険だということになる、そう反駁する事はできる。 そんな中で、また一つ、原子力発電所の危険性を教えてくれる記事を 見つけた。 イランの原子力発電所が昨年の夏以降、サイバー攻撃を受けてウィルス に感染し、一時原子炉が制御不能になったという。 崩壊するおそれすらあったという。 崩壊した場合の威力は小型核爆弾一個ほどの大きさがあったという。 2月2日の毎日新聞がテヘラン発の記事で書いていた。 そしてその記事は、米紙ニューヨーク・タイムズ紙が、米国とイスラエル がイランの核開発を阻止するためサイバー攻撃を仕掛けた可能性について 報じていた、とも書いていた。 サイバー攻撃は今では技術力さえあれば平時でも、誰でも密かにできる。 そうだとすれば原子力発電所の危険性はこれまでとは格段に高まる事になる。 ここに来て突然日本政府は企業の原子力発電所の海外売り込みを全面的に 支援するようになった。 そういえば2月7日の産経新聞は、日本がブラジルと原子力協定の締結 交渉に入り、日本企業の原子力発電所の建設受注を後押しすることが分かった と書いていた。 いくら日本企業へのてこ入れとはいえ、それは無責任ではないのか。 唯一の被爆国である日本の政府が行うべき事なのか。 私はそう思うようになった。 了
天木直人のメールマガジン ― 反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説
天木直人(元外交官・作家)