□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン2011年2月5日発行 第79号 ■ ============================================================= 更迭されていなかった河野駐露大使ー外務省人事から目が放せない ============================================================== 私の書くことは常にニュースの先取りをして正しい事を書いている。 そう自負したくもなる、日刊ゲンダイの記事である。 日刊ゲンダイ2月5日号に次のような記事があった。 すなわち一時帰国している河野駐露大使が自民党の外交部会出席に 出席して民主党批判をした事についてこう書いていた。 河野大使が「ロシアの感情に響くような発言があった」と言って菅 民主党政権の対露外交を批判したのは、前原外相がかつて不用意に 「北方領土はロシアに不法占拠された」という発言のことである事は 明らかである。「これでは上司に喧嘩を売ったのも同然。前原外相は 完全にコケにされた格好です」(霞ヶ関関係者)、と書いていた。 その通りである。 そしてその後で、日刊ゲンダイは要旨こう続けている。 ・・・昨年12月23日付の朝日新聞は「菅政権は22日、河野駐露 大使を退任させ、後任に原田親仁駐チェコ大使を起用する方向で検討に 入った。早ければ来年1月にも発令する見通し」と報じた。他紙も 同様のニュースを流した。 しかしこれは誤報ではなかったのか。その後更迭はどうなったのか。 いつのまにか更迭話はウヤムヤになって今でも河野大使は駐露大使の ままだ。 どうやら河野大使の首を切ったら外務省全体を敵に回しかねないと前原 外相が恐れたようなのだ。 河野大使は渋沢栄一のひ孫を嫁にもらうなど血筋もよく、外務省の中 でもそれなりの影響力がある。 それでなくとも外務省は中国大使という重要なポストを民間人に奪われ 反発している。 これ以上外務省を怒らせてはまずいと判断したのだろう。結局河野大使 は2月で在任2年になるので(面子を立ててそれまでは駐露大使を続け させ駐露大使の人事交代は)3月以降、通常の人事として交代することに なりそうだ。来週10日からロシアを訪れる前原外相のサポートも河野 大使がそのままサポートするという。 官僚の更迭ひとつやれず、おまけに悪口まで言われている。マヌケ政権を 象徴する話ではないか・・・ この日刊ゲンダイの記事は菅民主党政権と外務省の本当の関係は実際の ところどうなのかという事を知る上での重要ポイントが満載の記事である。 その事について以下に私の解説を行なって、日刊ゲンダイのみならず、 このメルマガを読んだメディア諸兄が、菅民主党政権と外務官僚の関係に ついて真実を国民に知らせてくれるように期待する。 まず大使の帰国命令だが、帰国とともに駐露大使の任を解かれなかった ということは、一般論からすれば異例ではない。 むしろそれが通例なのだ。 大使は次のポストが決まるまでしばらく待命(つまり次のポスト待ち) という待遇が与えられる。 何もしなくても高額な駐露大使給与がもらえる。これは外務官僚の間で 行なわれる甘やかしである。 私のように一時帰国してすぐにクビを斬られることが異例であり、これ こそが更迭である。 しかし河野大使の人事が異例であることには変わりはない。そしてその 後任が原田氏になることも内定していると思う。 だから報道は誤報ではなかった。 問題はその後の河野大使の処遇である。 河野大使の夫人が渋沢栄一のひ孫であることは日刊ゲンダイの記事で はじめて知ったが、血筋の問題は別にしても河野大使の面子を保つ形で 人事を行なうぐらいの配慮は当然菅民主党はするだろう。 その意味で実際の人事交代が3月にずれ込む事は当初より想定されて いたものだと思う。 問題は自民党外交部会における河野発言が出た後の前原外務大臣と 外務省の関係である。 もしこの発言が八百長発言、つまり菅民主党政権や、なによりも前原 外相の了承を得た上での発言であれば何をかいわんやであるが、私には それは考えにくい。そんな芝居をするメリットは何もないからだ。 そうだとすれば、この河野発言の前と後では菅首相や前原外相の対応が 異なってきてもおかしくない。 もしなんらの手も打たず、日刊ゲンダイの報じるように今後の対露外交に 河野大使を使い続けるのであれば、もはや菅・前原外交は政治主導どころか 完全に外務官僚に屈服したということだ。 その意味で河野大使の人事の時期と、次のポストが重要な意味を持って くる。 河野大使がさらにどこかの大きな国の大使になるであれば、これはもう 完全な温情だ。更迭は見せかけだということになる。 実はこの駐露大使の人事とならんで、菅・前原民主党政権の政治指導力 を占う最大の外務省人事がある。 それが駐米大使人事である ここに来て藤崎大使の後任に藪中三十二前外務事務次官の名前が急浮上 している。 この人事は文芸春秋2月号が「霞ヶ関コンフィデンシャル」において 早々と書いたが、最近では「選択」2月号がそれをダメ押しした。 すなわち駐米大使に民間人を起用する事に松本剛明外務副大臣が待った をかけた。松本氏と藤崎氏は明治の元勲・伊藤博文の子孫でいとこどうし。 前原外相も松本氏を尊重していて、4月に在任3年の藤崎氏を更に続投 させる事にした、と。そして後に、人材の払底している外務官僚の中から 順当に前次官の藪中氏を充てて、民間大使を阻止する外務省の意向を 尊重することにした、と。 藤崎大使の交代時期が遅れる理由は実はそれとは別にある。 それは菅首相の訪米が遅れるからだ。もはや4月ではなく6月下旬に ずれ込んだ。 だからこの人事は文春や選択の書いている事とは別に、遅れざるをえない のだ。総理訪米前に大使の人事はを変えるということは仕事の継続性からは 有り得ない。 訪米と言う花道を終えて後で大使を変える。これは常識的だ。 問題はその後に外務官僚、しかも、外務官僚の中でもほかに適当な人材が いないという理由で小物の外務官僚を当てざるをえないところが菅民主党 政権の指導力のなさを見事に表している。 中国大使に70を越える大物財界人を政治任命しておきながら、中国より はるかに重要な米国の大使に小物の官僚を順送りするしかないのだ。 おそらくそうなるだろう。 そこに菅・前原民主党政権の死に体の姿を見る。 更に言えば、ここしばからくは政局が混迷する。 ましてや解散・総選挙となり、政権交代や政権再編が行なわれるとすれば 誰も官僚を指導できる者はいなくなる。 官僚人事が真空状態となり、官僚たちが決める人事が野放し状態になる。 河野大使の扱いも、次期駐米大使に外務官僚が起用されることも、何も かも停滞し、政治空白のなかで行なわれる事になる。 官僚主導の政策がどんどんと復活することになる。 そういう観点から駐露大使や駐米大使の外務省人事を注視する必要が あるのである。 了
天木直人のメールマガジン ― 反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説
天木直人(元外交官・作家)