□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン2011年1月28日発行 第56号 ■ ============================================================= エジプトへのデモ拡大を恐れる米国とそれに同調する日本のメディア ============================================================== チュニジアの政変がエジプトへ飛び火しつつある。 それがどこまで拡大するかはまだ不明であるが、その帰趨はパレスチナ 問題に大きな影響を及ぼさざるを得ない。 だから私は注目している。 当然ながら米国の関心もそこにある。 独裁政権を擁護することは出来ない。 民主化の流れに水を差すわけにはいかない。 ムバラク政権を擁護してエジプト国民の反発を買っては逆効果だ。 米国にとって重要な事はムバラク政権の維持ではない。 それに代わる政権を、決して反米、反イスラエルのイスラム主義政権 にさせない事だ。 中東の安全保障に及ぼすエジプトの役割はそれだけ大きいのである。 しかし私がこのメルマガで強調したいのは、エジプトへの政変の拡大を 恐れる米国のジレンマではない。 米国の立場を代弁するかのような日本の大手新聞の論調である。 民主化は歓迎されるべきにもかかわらず、あたかもそれを懸念するかの ような報道振りが続いている。 もちろん中東情勢の混乱は様々な懸念をもたらす。 日本企業や日本経済にとってマイナスだ。 日本の観光客への被害も懸念される。 しかし日本の大手新聞がエジプトへの政変波及を懸念する理由は 決してそれだけではない。 日本の大手新聞は、中国や北朝鮮の外交にとどまらず、中東外交でさえ 米国政府と利害を共有するかのようだ。 米国政府の代弁者の如くだ。 それを見事に示したのが1月28日の毎日新聞と朝日新聞の社説である。 すなわち毎日の社説は「強硬な鎮圧策をやめよ」と題して要旨こう 書いている。 クリントン米国務長官が要望したようにエジプト当局は強硬な鎮圧策 を取るべきではない。政治的には中東随一の親米国であり、アラブの中 で1979年に真っ先にイスラエルと和平を結び、1991年の湾岸戦争 では米国の求めにより「アラブ連合軍」を組織してイラクと戦ったエジプト は米国にとってなくてはならない国だ。中東民主化の必要性は認めつつ イスラム勢力の台頭は望まない。それが欧米諸国の本音だろう。 アラブ世界に広がる民衆運動は世界秩序の大きな変化を生む可能性を 秘めている。私達はその事を再認識して事態を見守るべきだろう・・・ 微妙な言い回しであるが民衆革命は世界秩序に悪影響を及ぼすと 言っているのだ。「欧米諸国の一致した本音」という言葉を使って、 日本もそれに従えと言っているのである。 そこにはアラブの民衆への視線はない。 朝日の社説「民主化宣言し流血避けよ」の論調も同様だ。 エジプトはイスラエルとも国交がある親米国家で、中東和平やアラブ 諸国の仲介役、調整役でもある。そんな地域大国の政治的混乱は、中東の 不安定化につながりかねない。エジプトを最悪の事態にしないためには 治安部隊が市民に銃を向けるような流血の悲劇は何があっても避け なければならない。政府が暴力を使えば、イスラム過激派のテロが人々の 心をつかむ。日本はエジプトに対する主要援助国の一つである。欧米諸国 とも相談しつつ、国と国民の将来のために賢い選択をするよう 働きかけたい・・・ エジプトのためと言って、決して米国のために、と書かないところが 朝日の狡猾なところである。当然のごとく「イスラム過激派のテロ」と 言い切るところに無知な日本の読者を誤誘導する作為がある。 今後他の新聞社も同様の社説を掲げてくるだろう。 私はそれに注目している。 了
天木直人のメールマガジン ― 反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説
天木直人(元外交官・作家)