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天木直人のメールマガジン ― 反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説

天木直人(元外交官・作家)

天木直人

北朝鮮との直接対話を唱え始めた前原外相をどう評価するか   
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□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン2011年1月15日発行 第24号 ■    =============================================================   北朝鮮との直接対話を唱え始めた前原外相をどう評価するか          ==============================================================    これほど大きな外交方針の唐突な転換であるのに、この前原発言を 正面から論説する記事が見当たらない。  なぜか。それは誰も前原外相の考えがわからないからだ。評価しにくい からだ。  しかし、その真意がどこにあろうと、前原外相の今後の北朝鮮外交の真贋 を見極めていくつかのポイントがある。それを書いてみる。  第一点は北朝鮮との直接対話は正しいかどうかである。  わたしの結論は正しいというものだ。日本は北朝鮮と直接交渉をためらう 理由はどこにもない。  そもそも六カ国協議は、米朝協議で北朝鮮に核放棄させらず、それどころか 一杯食わされた米国が、関係国を引きずり込んで共同責任として北朝鮮に圧力 をかけようとして始まったものだ。  しかし米国は、六カ国協議の重要性を主張する一方で、六カ国協議では埒が 明かないと見るや、勝手に米朝直接対話に踏み切った。  北朝鮮との核廃棄交渉は所詮は米国と北朝鮮の取引で決まる。  米国に言われるままに、北朝鮮との交渉はあくまでも六カ国協議で行なうと いい続ける日本の外交に主体的な外交戦略はない。  六カ国協議を否定しろとは言わない。しかしそれと並行して北朝鮮との直接 交渉を行なうことを排除する理由はどこにもない。  北朝鮮に利用されかねない、とか、対話が始まっても進展の見通しがない (1月12日毎日)などの考えは、直接対話に反対する理由にはならない。  利用されなければいいのだ。進展が得られるように交渉すればいい。  第二点は、そもそも北朝鮮との直接交渉を米国より先に始めたのは日本 だったということだ。それが小泉首相の電撃訪朝であった。  あの時、もし小泉外交が、拉致問題に対する対応を誤らなければ、今頃は 平壌宣言に基づいて日朝国交正常化という快挙が成し遂げられていたかもし れない。  ところが功をあせった外務官僚と小泉首相は大きな間違いをおかした。  一つは拉致問題に対する拉致被害者家族軽視であり、拉致問題に対する 世論の読み間違いである。  もう一つは米国に十分な事前通報を行なわずに訪朝し、平壌宣言を発表し たことである。  米国は激怒し、その直後に北朝鮮の核疑惑を公表し、核疑惑の北朝鮮と 国交正常化を進めようとした日本政府に待ったをかけた。  それ以来日本の北朝鮮外交は北朝鮮の核放棄を中心とした六カ国協議が 中心となった。  話はそれるが、私はこの北朝鮮外交の失敗を契機に、小泉首相の外交が 対米従属に傾斜していったと思っている。  第三点は北朝鮮との直接対話において日本は何を重点に交渉すべきか ということである。  これについての私の考えは「拉致問題と国交正常化の一括合意」に絞るべき だ、というものである。  核問題については二国間協議では触れるべきではない、ということである。  その最大の理由は、日本にとっての最重要課題は北朝鮮との過去の清算で あり、それはとりも直さず拉致問題と国交正常化であるからだ。  これについては日本には賠償(復興支援)という大きな切り札がある。  この協議に集中すべきである。  米国の要求に従って、北朝鮮との直接対話で日本が北朝鮮に核放棄をさせ ようとすればたちどころに行き詰まるだろう。  繰り返すように、北朝鮮の核問題は、専ら米国と北朝鮮の問題であり日本に は影響力はない。加えて、北朝鮮の核は日本にとっての直接の脅威ではない。  さて、以上の視点から前原外相の突如の北朝鮮との直接対話提案を、どう 考えていけばいいのか。  果たして前原外相は本気で北朝鮮との直接対話を行なおうとしているのか。 そしてそれは前向きに動き出すのか。  私の答えは、否定的である。  なぜか。  少なくとも前原外相のこれまでの基本姿勢は北朝鮮との過去の清算を重視 する姿勢ではない。  そして前原外相は名うての対米従属者である。  その前原外相が提案する北朝鮮との直接対話において、国交正常化の 実現が中心になるとは思えない。  国交正常化という大事業は情熱がなければ成しうるものではない。  その一方で北朝鮮の核放棄問題を前原外相が持ち出すことは明白である。  そのとたん北朝鮮は硬化する。直接対話がその玄関口で頓挫する。  このように、もし前原外相の直接対話の背景が、米国の北朝鮮外交の 意向を汲んだごときものであれば、うまく行くはずはない。  ひょっとして前原外相の突然の提案は、米国も外務官僚もかかわっていない 思いつきの提案かもしれない。  そう私が思うのは、韓国の外交通商省の金英善報道官が「北朝鮮との対話が 成り立つためには南北対話が先行し南北関係の改善が必要だ」と釘を刺した ことだ(1月14日毎日)。  日米韓との同盟重視を唱える前原外相が、北朝鮮との直接対話について韓国 に事前通報せずに提案したとしたら、外交的にはあまりにもお粗末である。  偽メールの時や八つ場ダムの時やJAL再生の時のように、思いつきで なされた直接対話提案であれば驚きだ。  そうであれば評価以前の問題である。すぐに忘れ去られてしまう提案 ということになる。  果たしてこの前原提案は、今後さらに進展していくのであろうか。それとも 再びメディアをにぎわすことはないのだろうか。  私は注視している。                              了                            

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