□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン2011年1月14日発行 第23号 ■ ============================================================= 「メディアの問題」もつまるところは「日本全体の問題」である ============================================================== 新聞批判について書いたついでに、かねてから思っている事を 追加しておきたい。 メディアが劣化した原因を考えていくと、そこに一つの大きな発見に 出くわす。 メディアの劣化の最大の原因は個々の記者が横並び意識にとらわれ、 独自の視点や考えを失った事にあるとニューズウィーク誌は書いた。 たとえ自立した記事を書く記者がいても、その記事は上司(デスク)に よって潰される、と書いた。 これこそ、今の日本の至るところに見られる現象ではないのか。 それをひと言で言えば、個々人の自立心の喪失であり、個々人をその ような閉塞状況に追い込む、この国の権力者の増長である。 権力者とは何も国家権力だけとは限らない。あらゆる分野において強い ものと弱いものはうまれる。強いものが権力者なのだ。 その強者の力がどんどんと強くなって行っているのではないか。弱者の 抵抗力が惨めなほどに弱くなっていっているのではないか。 新聞の劣化もまた、そのような日本社会全体の問題の一現象ではないか。 そうだとすれば新聞批判だけでは新聞はよくならない。 新聞の権力者(社論)が間違っていればそれを読者が糾弾し、排除する。 個々人の記者の自立した記事を読者が正しく評価する。 そのような状況を読者が作り出す事によって新聞社の権威を牽制していく。 その事が重要だと思うのである。 それはあたかも個々人が、組織の中で、社会の中で、自立心、反発心を 持っても、排除されずに生きていく状況を、我々の手で作り出していく必要 があるのと同じである。 たとえば今日(1月14日)の朝日新聞の紙面を引用して説明しよう。 朝日新聞はその社説で、民主党が昨日の党大会で2009年のマニフェスト を見直す方針を決めた事について、明確にそれを肯定し、予算案を修正して でも主要施策を推し進めろ、と書いた。 明らかに小沢・鳩山路線から菅路線への軌道修正に対する支持表明である。 しかし、その朝日新聞には、よく読んでみると、それに異を唱える記名入り の記事があった。 たとえば「政策ウオッチ」において松田京平記者はこう書いている。 (マニフェストで総選挙を戦った)当時の報道に携わった私は怒りを禁じ 得ない。ウソの看板で票を固めたと言われかねない行為に結果として加担した という自責の念すらある・・・白旗をあげる政治責任について、きちっと語っ てほしい・・・(マニフェストの)全面見直しには、解散総選挙覚悟の作業と 肝に銘じるべきだ、と。 まっとうな意見だ。 また別のところでこういう記事もあった。西山公隆という記者が13日に 開かれた民主党大会を取材してこう書いている。 「・・・党大会や前日の両院議員総会を通じて・・・首相の言葉を具体化 するための具体的な態勢や党内の合意がまったくできていないことが露呈して しまった。足元がこれほど脆弱では、国民に訴えようも、野党に呼びかけ ようもない・・・党内合意を取り付ける地道な作業を避けるべきではない・・」、と。 強硬発言を繰り返す菅政権に対する批判である。私はこの批判に与する。 これらは、菅民主党政権を支持し続ける朝日新聞の権威の考え方とは異なる。 メディアの中にも個の自立した意見は見つけられる。 どちらを選ぶかは読者だ。 新聞を劣化させるのも、蘇生させるのも読者だ、読者もまた問われている。 これもまたニューズウィーク誌の指摘する通りなのである。 了
天木直人のメールマガジン ― 反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説
天木直人(元外交官・作家)