□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン2011年1月10日発行 第16号 ■ =============================================================== 新幹線の米国売り込みに狂奔する前原外相に思う =============================================================== 今日(1月10日)の各紙は訪米中の前原外相が米国への新幹線売り込み に熱心である事をこぞって報じている。 新幹線に限らずに、このところ原発や武器技術や大型プラントなどの海外 売り込みに政府が躍起になっている。新幹線もその一つだ。 売り込む対象の是非は別にして、私は政府が民間企業の後押しをする事は 悪いことだとは思わない。 かつて私が外務省で経済協力を担当していた80年代前半の頃の事だ。 その時の外務省の援助方針は「ひもつき」援助はするなというものだった。 当時米国から貿易黒字を責められていた日本は、「ひもつき」援助、つまり 日本の援助で落札する企業からは日本企業を外す、という原則を、世界に先駆 けて採用し、業界の後押しをする通産省(経済産業省)と争った。 ひもつきを禁じたために日本の資金で欧米の企業がどんどんと受注する事に なる。これを日本企業が指をくわえて眺める。 対米従属のあまりこんな馬鹿な公的資金援助を行なう。そのことに私は 批判的だった。 権限争いを繰り返す通産省ではあったが、この時ばかりは通産省の言い分が 正しいと思ったものだ。 いまから思うと様変わりである。 経済不況にあえぐ今の日本では官民一体となって日本企業を支援しなければ ならなくなった。 繰り返すように、私はその事自体に反対しない。 しかし新幹線の売り込みに狂奔する前原外相の姿を見て、外務省は物事を 知った上で米国への新幹線売込みを行なっているのかと疑問を抱くのだ。 1月10日の日経新聞が次のような記事を掲載していた。 すなわち日本が米国に新幹線売込みを始めたのは、オバマ大統領が雇用創出 を狙って米高速鉄道の建設計画を打ち出したからだ。 ところが中間選挙で敗れたオバマ政権には逆風が吹いている。「小さな政府」 を掲げる共和党が躍進し、財政負担増への危険から新幹線建設を撤回する州が 出てきている、と。 この逆風を知った上で前原外務相は米国への新幹線売込みを行なっている のだろうか。 それを知った上で必死に売り込むのであればまだわかる。応援もする。 しかし、そもそも米国社会に新幹線が幅広く受け入れられるのか、という 根本問題がある。 米国人は自動車を運転してどこへでも行く。驚くべき距離でも走る。それが 嫌な者は飛行機だ。 そのような米国人気質が、果たして日本人のように新幹線を多用するのか。 作るのはいいとしても、米国社会で採算がとれるのか。 これは私の体験に基づいた意見だけではない。米国識者がそう言っている。 米国への新幹線売り込みに狂奔するあまり、最後は国際協力銀行の資金を 使って、採算性の合わない米国新幹線の売り込みを実現するような事だけは 避けて欲しいと思う。 了
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