□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン2011年1月2日発行 第2号 ■ =============================================================== 外務省が国連安保理常任理事国入りに再挑戦するという。正気か。 =============================================================== メディアは驚くような特ダネを隠し持って、それを新年早々にぶち 上げる事が過去何度とあった。 それを期待していたのだが今年は何もなかった。 スクープと言えばサンスポが浜崎あゆみの電撃国際結婚を報じていた ぐらいだ。 それにしても、退屈な元旦の各紙であった。 そんな中で毎日新聞が特ダネのようにして書いていた国連安保理常任 理事国入りの記事には、わが目を疑った。 その記事によれば日本政府は2011年を「再挑戦の年」と位置づけ、 従来のドイツ、インド、ブラジルに加え、南アフリカを「新常任理事国の 有資格者」と認める新改革案を引っさげて、今度こそ安保理常任理事国入り を目指すという。 悪い冗談ではないのか。 あれほど必死になって常任理事国入りを目指した日本の国連外交が頓挫 したのは2005年の事であった。 敗北の原因は、頼みにしていた票田のアフリカ諸国が直前になって反対に 回った事が大きかったとされている。 だから今度は南アフリカを入れてアフリカ諸国を引きずり込む戦略らしい。 しかし敗北の理由はアフリカ票が得られなかっただけではない。 もっと大きな理由は中国が日本の常任理事国入りに反対したことだった。 おまけに韓国も一貫して反対していた。 そして、何よりも本当の敗因は、頼みとしていた肝心の米国が日本の常任 理事国入りを支援しようとしなかった事だった。 それから数年たった今、状況はさらに日本に不利になっている。 中国が大国となる一方日本の国力は低下するばかりだ。 おまけに日中関係はかつてないほど緊張している。 加えて米国の国連軽視は今も昔も変わらない。 ましてや今の日米関係は普天間問題で米国の不信を招いている。 米国が当時の態度を一変して日本の常任理事国入りを支持する事など 考えられない。 たとえ米国がそうしても、米国の影響力の低下は、ほかの国連加盟国を 説得できる保証はない。 何よりも今の日本外交は問題山積で、国連安保理常任理事国入りなどに うつつを抜かす余裕などまったくないのだ。 実はこの国連常任理事国入りの外交については、昨年暮れの12月29日 に読売新聞が大きく報じていた。 その記事は、韓国抵抗、米中も消極的、アフリカ諸国の動向も不明で、 05年の当時とまったく状況は変わらない、安保理改革は進まない、という 記事だった。 元旦の毎日新聞の記事よりも、よっぽどこっちの記事のほうが現状を把握 している。 読売新聞の記事は、外務省が国連安保理常任理事国入りに再挑戦している という言及はどこにもなかった。 それを読んだ私は、まさか外務省が国連常任理事国入りを再開しようと しているのではないだろうな、と思ったものだ。 そして今度の毎日新聞の記事である。 毎日新聞のこのスクープを読んだ私は、外務官僚は本気でこんな国連外交 をやっているのだろうか、と思った。 しかしよく考えたら、さもありなん、と思い直した。 外務省は昔とまったく変わっていないのだ。 なぜ外務官僚はこんなピント外れの外交を行なおうとしているのか。 それは今の外務官僚にはやるべき仕事がないからである。 いや、もっと正確に言えば、やるべき外交は山ほどある。しかしそれを動かす 能力がないのだ。 だからどうでもいい事に専念するのである。 日米関係も日中関係も日ロ関係も、すべて行き詰っている。拉致問題を含め た北朝鮮外交は行き詰まって久しい。 しかも政治主導だ。政治家を叱咤して正しい外交に導こうという気概も 能力も、今の外務省にはない。 もはや外務官僚にはするべき仕事がないのだ。 するべき仕事がなければ静かにしていればいいものを、何かしないと 外務省は不要だという事になってしまう。 そこで政治主導の及ばない国連改革に血道を上げる事になる。 そんな外務官僚の国連外交を監視すべきメディアは、特ダネ情報欲しさに 外務官僚と結託してちょうちん記事を書く。 メディアと馴れ合い、メディアに甘やかされる外務官僚は、そうして どんどんと劣化していくのである。 了
天木直人のメールマガジン ― 反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説
天木直人(元外交官・作家)