□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン2010年12月24日発行 第274号 ■ =============================================================== 開き直ったかのような外務省の今回の外交文書の公開とメディアの沈黙 =============================================================== 外務省が12月22日に沖縄返還交渉時の外交文書を中心に公開を行な った。 それを12月23日の各紙が一斉に報道した。 私はそれらのすべてを熟読した上でこのメルマガを書いている。 これは外務省の開き直りではないか、と思う。 さもなければ、もはやお手上げ状態の外務省が、前後の見境なくやけっぱち で公開したか、そのいずれかだ。 なぜ私がそう思ったか。 それは今回公開された文書によって、これまでの外務省がウソをついていた 事が見事に明らかになったからだ。 それどころか、鳴り物入りで行なった日米密約の報告書が不十分であり、 狭義の密約はなかったとする報告書が国民を偽るものだったことが明らかに なったからだ。 実際のところ大手各紙が一様に指摘している外交事実は、今後国会で厳しく 追及されれば、国ぐるみで国民を欺き、違憲を犯していた事を証明する深刻な ものである。 たとえば返還後も米軍は沖縄に核兵器を残していた事を日本側は気づいて いながら米国に押し切られ、それを国民に隠していたこと。 たとえば琉球政府主席の公選で親米保守系候補が当選するよう日米両政府が 裏工作をしたこと。 たとえば沖縄からの米軍のベトナム出撃を認めていたこと。 たとえば機密電報を意図的に廃棄した事を示すメモが見つかったこと。 そういえばこの機密文書廃棄問題については、岡田外相(当時)が調査を 約束していたが曖昧のままに忘れ去られようとしている。 要するに、12月23日の毎日新聞が社説の見出しでいみじくも指摘して いるように「隠し事はまだあった」のである。 しかもまだどれだけの隠し事があるか想像も出来ないのである。 密約検証の有識者委員会の一人であった坂元一哉大阪大学教授は証言して いる。 「有識者委員会が今年3月に報告書をまとめた際、(我々に)公開された 文書の一部が、今回は公開されていないのは問題だ」と(12月23日読売)。 もう一人の委員である春名幹男名古屋大学特任教授も、西山元毎日新聞記者 の西山太吉氏も、それぞれ12月23日の読売新聞、東京新聞で言っている。 返還された基地の原状回復経費3億2000万ドルの日本側負担の密約の ほかに、思いやり予算の原型とも言うべき米軍施設関係費6500万ドルを 日本側が負担するという新たな密約があった、これは重大だ、と。 この対米従属的な密約外交は今でも続いている。そう思わせるに十分な 外交文書の公開である。 問題は、これほど深刻な外交文書の公開であるのに、その深刻性を指摘する 大手新聞が皆無だということだ。 わずか毎日新聞だけが前述のように「隠し事はまだあった」と非難している。 しかしそれとても、もっと情報公開すべきだというだけで、政府のウソを 糾弾、責任追及するものではない。 私がこのブログを一日遅らせて書いたのは、今日12月24日の新聞の中に、 少しはこの外交文書の公開についての政府批判の論評が見られると期待した からだった。 しかしものの見事に期待を裏切られた。情報公開を報じた後は、まるで誰も その中身について関心がないごとくだ。 私が、外務省が開き直った、という理由はここにある。 民主党も自民党も、そしてメディアも、対米従属であり日米同盟重視で一致 している。 追及されない、出来ないことを見越して、今までおどおどして隠してきた ものを、この際、「文句があるのか」と外務省は開示したとさえ思えてくる。 しかし、もし護憲政党がまだその能力と情熱があれば、今回の情報公開で 明らかになった諸点を本気で国会で追及するだろう。 その時政府は窮地に追い込まれる。 それを承知の上で外務省が公開したのなら、やけっぱち公開ということだ。 あるいは中身をすべて精査できずに、後は野となれ山となれ、そういう 見境いのなさで、責任を民主党政権の政治主導に放り投げたのか。 私がお手上げ公開ではないか、と思う理由がここにある。 いずれにしても、社民党や共産党は来年の通常国会で追及するのか、 できるのか。 今回の外交文書の公開は、平和にかける護憲政党の真価もまた問われる事 になる。 了
天木直人のメールマガジン ― 反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説
天木直人(元外交官・作家)