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天木直人のメールマガジン ― 反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説

天木直人(元外交官・作家)

天木直人

パンドラの箱を開けた新防衛大綱
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□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン2010年12月18日発行 第265号 ■       ===============================================================    パンドラの箱を開けた新防衛大綱     ===============================================================  菅・仙谷民主党政権がおかした誤りは数え切れないほどあるが、この 新防衛計画の大綱は、その中でももっとも深刻な誤りとなって日本の国を 悩まし続けるであろう。  その責任は万死に値する。  およそ政府のあらゆる政策文書は官僚の手によって書かれ、それを読んだ だけでは国民はその意味を理解できない事になっている。  今度の新防衛大綱もその典型である。  私自身その全文を読んでみてあらためて思い知らされた。  至るところに矛盾した言葉と矛盾した考えが出てくる。  だからその評価は、評価するものによって様々な評価ができる。  読み方次第では国際平和に貢献する当たり前の防衛政策であるようにも 読める仕組みになっている。  そこを強調して、これは優れた防衛大綱だ、と説明する事さえできる。  しかし、今度の防衛大綱が狙ったものは、戦後65年かけて歴代政権が 抱えてきたわが国の防衛政策の矛盾を、一つの言葉で解き放つことであった。  それが基盤的防衛力構想を否定して動的防衛力構想を打ち出す事である。  しかし、新防衛大綱の起案者たちが喜び勇んで打ち出したこの名案が パンドラの箱を開ける事になるに違いない。  馬鹿の考え休みにしかずだ。  基盤的防衛力構想の本質は、憲法9条と日米安保条約の矛盾を見事に包み 隠す考えであった。  すなわち日本は憲法9条の下で戦力を放棄する。しかし日本に対する脅威 は歴然と存在する。そのためには国連とともに米国に守ってもらわなければ ならない。自衛隊はそれまでの間の必要最小限の自衛力であり続ける。憲法 9条の枠内での自衛隊であり、自衛力である。  有体に言えばこれが基盤的防衛力の考えである。  それ自身、官僚の考えた方便ではある。  しかしこの官僚の方便こそ憲法9条と日米軍事同盟の矛盾を覆い隠すギリ ギリの選択であったのだ。  護憲政党が憲法9条違反の政府を攻めきれず、何よりも日本国民が憲法9条 と日米安保をともに受け入れてきた理由がそこにあった。  ところが今度の新防衛大綱はこの政府にとっての宝物を軽率にもあっさり 捨て去った。  さぞかし防衛問題で苦労させられてきた良識ある先輩官僚たちは、後輩官僚 たちの軽率さ、対米従属ぶりに怒っていることだろう。  俺たちの苦労はなんだったのか、と。  官僚の誤りを見抜けずに、安全保障政策を官僚に100%依存した外交・ 安保オンチの菅・仙谷民主党政権が動的防衛力構想を閣議決定した。  その結果何が起きるか。  一つはこれからの防衛政策の一つ一つが憲法9条に違反していることが明る みになっていく。憲法論争が再び活発化する。その度に政府はその対応に苦悶 する事になる。  二つ目は中国、北朝鮮との緊張関係に悩み続ける事になるということだ。  それを喜ぶのは無責任な極右だけである。平和主義者はもとより、良識ある 国民や政治家や経済人なら、日本の将来は中国との共存共栄しかないことを 知っている。北朝鮮との対決よりも北朝鮮との国交正常化の実現が望ましい事 を知っている。  これからの政権は中国と北朝鮮との関係で苦しみ続ける事になる。  三つ目は米国のテロとの戦いから逃れられなくなるということだ。  今度の新防衛大綱には、奇妙な事にテロとの戦いへの言及がない。  しかし言うまでもなく米国の安全保障政策の最大の関心は中東である。 パレスチナ問題であり、そこから来るテロの脅威であり、そしてイラン・ イスラエル戦争の可能性である。  在日米軍基地はその為にあり、米軍は日本の基地からアフガン、イラク、 パキスタンなどにおけるテロとの戦いに参戦してきた。  そして米国のテロとの戦いはこれから激しさを増す事はあってもなくなる ことはない。  日本の防衛政策は、日本の防衛とは何の関係もない米国のテロとの戦いと 切っても切れない関係となる。米国のテロとの戦いに悩まされ続ける事になる。  逆説的に言えば、私は新防衛大綱を歓迎する。  新防衛大綱はわが国の防衛政策のパンドラの箱を開いてしまった。  これでやっと国民も目覚めるだろう。  国論が二分するような本物の安保論争、憲法9条論争が起きることを 私は期待する。                               了

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