□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン2010年12月17日発行 第264号 ■ =============================================================== どうしても日米安保と憲法9条を両立させようとしたい朝日新聞 =============================================================== 日米安保条約と憲法9条はその根本において矛盾する。戦後の米国の 日本占領の歴史を考えればそれは明らかだ。 しかしその矛盾のまま65年の歳月が経った。いまさらそれが矛盾する と言うわけには行かない。 なによりも国民がその矛盾に気づいて左右双方の立場から騒ぎ出しては 面倒だ。 憲法9条も日米安保もどちらも重要だと考える今の国民のままでいい。 あたかもそう言わんばかりの論説を朝日新聞は繰り返す。 今年1月19日の社説がその典型だった。 改定日米安保条約署名50周年を記念するその日の朝日新聞の社説は 日米安保と憲法9条をともに受け入れてきた日本国民の知恵はすばらしい、 これこそがアジアの安定に寄与してきた、と書いた。 その後も朝日の論調は、船橋洋一前主筆をはじめとして、様々な論説委員 が日米安保条約と憲法9条の幸せな並存を強調する。 そしてまた12月15日の外岡秀俊編集委員のザ・コラムの論調にそれを 見つけた。 外岡秀俊編集委員の論説は、まず冒頭に菅直人内閣が近く閣議決定する 新防衛大綱を次のように批判する。 「戦後の防衛論議で、これほど重要な問題が、これほど軽々に扱われた例 はないだろう」、と。 そして今度の防衛計画の大綱で最も重要な変化は、これまでの「基盤的 防衛力構想」を捨て、「動的防衛力」という考え方を新たに導入する事だ として、その危険性を次のように指摘する。 「これは30年以上にわたる日本の防衛政策を根底から変えることを意味 している。 仮想敵国の脅威に対応して防衛力を拡大するという考えを捨て、必要最小限 の装備で対処する。これが基盤的防衛力構想だ。 そんな従来の考え方を捨て、中国や北朝鮮の軍事的脅威に応じてわが国の 軍事力を『脅威対応型』にするのが動的防衛力というのなら、それは 『抑制の原則』を外すことになり、アジアの緊張を高めるおそれが出てくる。 そんな大きな方針転換を、果たして民主党は十分に党内議論を尽くして決め たというのか」、と。 一見すればもっともな論説である。その限りでは私も同感だ。 しかし、外岡編集委員が本当に言いたい事はそんな事ではない。 「動的防衛力」の考え方は自主防衛を唱えるタカ派は歓迎する。 その一方で護憲派は憲法9条違反だと気色ばむ。 その騒ぎが大きくなっていくと、日米安保条約と憲法9条の幸運な 両立が難しくなる。 外岡編集委員は、基盤的防衛力構想の生みの親である故久保卓也 防衛局長の言葉を引用して次のように言う。 「基盤的防衛力」とは、軍備拡張に歯止めをかけ、憲法9条とギリギリ で折り合う自衛力の保持に限定する、という「抑制原則」だった。 言い換えれば日米安保の枠組みの中で、憲法9と合致する専守防衛という 立場が形作られた」、と。 自民党が、ともかくも掲げてきたこの看板が、軽率な民主党のおかげで 台無しになる。菅内閣の馬鹿野郎。 そう言っているのだ。 しかし私は、逆説的に、この菅民主党政権のおろかな新防衛大綱を歓迎する。 菅政権になって急速に対米従属が加速しようとしている。 この新防衛大綱を、さっそく米国は歓迎した(12月16日ワシントン 発共同)米国防総省のグレッグソン次官補は「何年もの議論の末、日本政府が 冷戦期から受け継がれた部隊配置を変化させる」、と。 いよいよ憲法9条と日米同盟の矛盾が明らかになってくる。 もはや日米安保条約ではなく日米同盟なのだ。 日米同盟は憲法9条の否定である。 それでも朝日新聞は憲法9条と日米同盟は共存するというのだろうか。 世論を欺くことは出来ても私の目はごまかせない。 了
天木直人のメールマガジン ― 反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説
天木直人(元外交官・作家)