□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン2010年12月14日発行 第257号 ■ =============================================================== 海老蔵事件について書くのはこれで終わりにしたい =============================================================== 海老蔵事件の報道については、これからも引き続き繰り返されるであろう。 しかし、海老蔵事件に関してメルマガで書くことはこれで止めにしたい。 最後にどうしても書きとどめておきたい。 時として報道は我々の眼を曇らせる。 海老蔵事件をめぐる報道は、どちらが悪いかという事ばかりを報じている。 海老蔵を叩いたと思えば今度は殴打男を叩く。 両者の言い分が食い違うと言って、どっちがウソをついているのと言う。 そんな事ばかりを書く。 しかし今度の事件の本質はそんな事ではない。 海老蔵も殴打男も、ある意味でこの国の深刻な病理の被害者であるのかも しれないのだ。 本日発売された週刊アエラ12月20日号の「伊藤容疑者が属したグループ の実態」という記事の中に今度の事件の本質がある。 しかも、その記事でさえも抑制して書いている。押尾事件のことやその背後に ある人物の名前は知っていても書かない。 すべてを明らかにすれば影響があまりにも大きいということだ。 私の専門分野は外交問題、なかんずくパレスチナ問題や日米同盟関係、さら には平和の問題である。 しかし私の本当の関心事は、人間社会の営みであり、そこに生じる絶対悪に 対する怒りであり、絶対善を求める愚直なまでの情熱である。 人間は正しく生きなければならないと思っている。 時として小さな悪事を働く事は人間の悲しい限界であるとしても、人間は それを反省し、恥じ入って、正しく生きる努力をしなければいけない。 強者が弱者を踏み台にしてはいけない。傷つけてはいけない。ましてや暴力 を振るう事は許されない。 何よりも強者、権力者の悪が見過ごされることだけは許してはいけないと 私は強く思う。 アエラの記事の要旨はこうだ。 「・・・かつて、西麻布には芸能人御用達のバーがあった。当時『ヒルズ族』 と呼ばれた企業経営者の一人が出資者に名を連ねたこのバーには、モデルや アイドルの『卵』である女性が多く在籍していた・・・ 以前、この店に通っていた男性はこう話す。 『この店は、芸能関係者や著名人、社長らに、女性を紹介する・・ことも あった』 また別の常連客は、 『男性客が店内で女性とトラブルを起こすと、示談として男性が金銭を支払 う事もあった』と話す。 このバーの店長をしていたのが、A(海老蔵が暴行を受けたビル11階の店 の経営者で、東京・六本木・西麻布を中心とした地域に精通した人物)だ・・・ 今回の事件の主たる関係者は、元暴走族のリーダー、海老蔵に暴行を加えた 伊藤容疑者、そしてAである。 この3人には共通点がある。3人とも東京の繁華街を中心に活動している同 じ暴走族に所属していた。 このグループは単に暴走行為をしている集団ではない。企業経営にも乗り出 している。2008年には証券取引法違反で話題になったネットコンサルティ ング会社や、09年に子会社を売却し、マザーズ上場廃止となった映像権販売 会社など、企業経営にも関与した。 さらに悪い話も付きまとう・・・08年に株価操作などで利益を得たという 情報もある。 グループを良く知る人物は、こう話す。 『暴力団の下部組織だ』 『いや恐喝集団だ』 今年1月、朝青龍を怒らせ暴行を受けたとされる人物はやはりこのグループ で長い間幹部をつとめていた人物だった。朝青龍から多額の示談金を受け取っ たとも噂されている・・・ また、事件現場となった店が入っている西麻布のビルでは、当時警察官 だった人物によると、03年にリベリア大使館関係者による裏カジノが開かれ ていたという。 ビルの運営会社のオーナーは人気ファッションブランドの創業者メンバー。 バブル期には都心部を中心に、積極的な不動産投資をしていて、ほかにも 周囲にビルを複数所有している・・・ この事件(海老蔵事件)は、双方とも被害届を出して、法廷闘争に持ち込ま れる可能性が高まってきた。 周辺に詳しい芸能関係者は、こう話した。 『どこまでガチでやるのか。こちらに被害が及ばないか不安だ』 パンドラの箱が開いたのかもしれない・・・」 このアエラの記事は、しかし、まだ抑えて書いている。記者はすべてを書い ていない。現実はもっとおぞましい世界だ。 大方の人間が真面目に生きている。 若者は就職難に苦しみ、夜中まで働いている。 主婦は安売りを求めて家計をやりくりしている。 それでもみな真面目に一生懸命生きているのだ。 その一方で、こういう世界が日本の東京のど真ん中にある。 不当なやり方で法外のカネを手にする。カネ、薬、セックス、酒、食事、 あらゆる欲望におぼれ、快楽を求める。 目的の為には脅迫や暴力もいとわない。 その中に、権力者たちの一部が群がる。 権力者たちはその権力を利用して物事をもみ消す。法の支配を歪める。 そういう世界が放置されているとしたらどうだろう。 メディアもまた、それを知っていながら見逃している。 知っていながら国民の目から意図的に遠ざける。 なまじっかな正義感をもってそれを追及しようとすればたちどころに抹殺 されてしまう。 こんな事はあってはならないことだ。 しかし残念ながらそんな病理がこの国に存在している事を私は知っている。 私はそれを許せない。 今度の事件は果たしてどのような形で幕引きされるのだろうか。 私はそれを見届けたいと思っている。 了
天木直人のメールマガジン ― 反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説
天木直人(元外交官・作家)