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天木直人のメールマガジン ― 反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説

天木直人(元外交官・作家)

天木直人

「日米同盟という欺瞞、日米安保という虚構」書評(4)
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□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン2010年12月12日発行 第253号 ■       ===============================================================    「日米同盟という欺瞞、日米安保という虚構」書評(4)       ===============================================================  条約で規定された明確な日米安保体制を、日米同盟という曖昧な言葉で 置き換える事が当然のように語られるようになって久しい。  その間に、日米関係は米国の安保政策の変更に従属するままに拡大、漂流 することになる。  その日米同盟の危うさについて書く前に、日米安保条約の本質について 確認しておきたい。  中野は次のような旧安保条約の前文を引用し、安保条約とは、米国が日本を 守る事を約束した条約ではなく(1)暫定的に(2)米国の日本駐兵を許した 駐兵条約であると喝破する(31頁)。  この認識は重要だ。国民の果たして何人がこの事実を正しく知っている というのか。  「・・・日本国は、武装を解除されているので・・・固有の自衛権を行使 する友好な手段を持たない。無責任な軍国主義がまだ世界から駆除されて いないので・・・日本国には危険がある・・・よって、日本国は・・・ アメリカ合衆国との安全保障条約を希望する・・・日本国は、その防衛の ための暫定措置として・・・日本国内及びその付近にアメリカ合衆国がその 軍隊を維持する事を希望する・・・」  これが旧安保条約の前文にはっきりと書かれていることなのである。  そしてこの駐兵条約としての安保条約の本質は、改定安保条約にも、厳然 として引き継がれているのである。  われわれ国民は、岸首相の手による改定安保条約によって、一方的に基地 を提供させられる片務性の旧安保条約から、基地を提供する代わりに米国は 日本を守る事を定めた双務性、対等的な条約に改善されたと思い込まされて いる。  確かに新安保条約はその第5条において、「いずれか一方に対する武力攻撃 が、自国の平和と安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の 規定及び手続きに従って共通の危険に対処するように行動する事を宣言する」 と規定されてはいる。  しかし「共通の危険に対処するように行動する」という事が直ちに米国が 日本を守る事を義務づけていない事は自明である。  しかもその「対処」は、「(それぞれの国の)自国の憲法上の規定および 手続きに従って」という縛りがある。  これでは「米国は日本を守るためにその軍事力を行使する」という事は保証 されていないも同然である。  その一方でその第6条においては、「・・・アメリカ合衆国は、その陸軍、 空軍、及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される・・」 と明確に規定している。  しかもその在日米軍の地位についての一切は、国民の知らないところで決め られた行政協定(日米地位協定)に委ねられ、そこでは旧安保条約下と同様に 治外法権という前時代的な特権を米軍に与えたままなのだ。  さらに重要な事は、新安保条約は第10条2項において、「・・・この条約 が10年間効力を存続した後は、いずれの締約国も、他方の締約国に対しこの 条約を終了させる意志を通告することができ、その場合には、この条約は、 そのような通告が行なわれた後1年で終了する」、と明言されていることだ。  すなわち改定安保でさえ暫定的な性格の条約なのである。  治外法権を与えた駐兵条約は1970年以降は、いつでも日本が不要と認め れば、通告しさえすれば1年後には確実に終わらせることができるのである。  この点を協調して中野は言う。  少なくとも冷戦終わった時に安全保障条約の役割は終わった。日米軍事協力が 必要であるという立場をとったとしても日米安保条約は一度終わらせるべきだ。 いますぐにとは言わないが終了期日を定めてそれに向かって準備すべきだと。  ところが奇妙な事に、護憲政党である社民党も共産党も、期限を付して日米 安保条約を終わらせようとという問題提起は一切行なわない、と。  期限を付して日米安保条約をいったん終わらせてみる。  この中野の問題提起は重要である。  もし日本国民が未来永劫に米国の軍事力によって日本を守ってもらう事がわが 国の安全保障にとって最適であると考えるにしても、日米安保条約は一度なく して、日米安保条約とはまったく異なった性格の日米相互防衛条約を作り直す べきなのだ。  それが日米同盟というのであればそれでもいい。しかしその日米同盟は、 米国の都合に合わせて官僚が自由自在に変えていく日米同盟ではなく、条約で 明確にその目的、内容を規定し、国民の前でそれを説明し、了解を取りつける。 そういうものにしなければならないのである。  その努力を避けて、その時の都合でどうとでも説明できる曖昧な日米同盟 という言葉で、政治家、官僚が憲法9条を否定していく。  これほど政治家、官僚の越権行為はない。  日米安保条約を今すぐになくせとは言わない。しかし歴史的役割を終えた 日米安保条約は終了期限を定めて、その時に向かって終了の準備を進めていく べきだ。  中野はこう主張する。  私はそれに賛成した上で、更に次のように問題提起する。  日米安保条約廃止の準備期間の間に、わが国の自主防衛政策を国民的合意の 下に確立していく。  米国の戦争に従ってまでも対米従属の政策を続けていく事が日本を守る上で 最適なのか。  それとも自衛隊を軍隊に格上げし、その軍隊を強化して中国や北朝鮮の軍事 的脅威に負けない国にしていくのか。  あるいは私の主張するように、憲法9条を世界に掲げ、米国の戦争に従属する 自衛隊から本来の専守防衛の自衛隊に立ち返り、中国、北朝鮮、韓国を含めた アジア諸国の間に不戦協定を構築する平和外交を進めるのか。  選択はこの三つしかない。  これ以外のいかなる考えも、基本的にはこの三つに集約される。  憲法9条と日米同盟の共存などはありえない。  日米同盟とアジア集団安全保障体制の共存は言葉のごまかしである。                                 了                               

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