□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン2010年12月7日発行第242号 ■ =============================================================== 情報開示だけで終わってはいけない。 =============================================================== 情報開示が行なわれ、権力者のウソが明らかになる。 それはもちろん重要なことだ。 しかしより重要な事は、明らかになった事実をもとに、権力者に責任を 取らせる事だ。再び過ちが繰り返されないように政策を変えさせることだ。 ウィキリークスのビデオ公開でイラクにおける米軍の戦争犯罪がここまで 明らかになったというのに、誰も罰せられることなく、米国の戦争犯罪が 今なお至るところで放置され続けるのであれば、何のための情報公開か、 ということになる。 アサンジが命がけで行なった告発が無駄になる。 実はこのような事は至るところで見られることなのだ。 ウィキリークスの情報公開は、その方法や規模において革命的だ。しかし その大騒ぎの蔭で、ウィキリークスとは関係のないところで重要な情報開示 が行なわれていた。 12月2日の日経新聞に連載中のペリー元国防長官の「私の履歴書」の中で、 1994年の朝鮮半島危機の時に、朝鮮半島有事の際には、日本に存在する すべての米軍基地を自由に使ってもいいか、と確認を求めていた事が明らかに されていた事を、果たしてどれだけの日本人が気づいているだろう。 当時クリントン政権は北朝鮮に核開発計画の放棄を迫るため、在韓米軍に 数万人規模の兵力を増派する計画を作成した。そして有事対応の一環として 日本の基地を自由に使おうと白紙委任を日本側から取り付けようとしていた ということだ。 これは驚愕的な情報開示である。 なぜならば、60年の日米安保改定の際に当時の岸信介内閣は、「事前協議」 を経ずに米軍が在日米軍基地から朝鮮有事に出撃できるという密約を交わして いた事が明らかになり、大問題になったばかりだ。 その日米密約については先の日米密約検証有識者委員会(座長・北岡伸一 東大教授)が「60年当時密約はあったが今は失効している」として免責した。 さらにまた2008年当時の福田康夫首相は、鈴木宗男衆院議員の質問 主意書に対する答弁書で、「日米安保条約下での(朝鮮半島有事の際の米軍 基地使用に関する)事前協議が行なわれたことはない」と説明していた (12月2日日経新聞)。 これら二つの政府側の答弁が意味していることは、次の通りである。 朝鮮半島有事の際に米国が日本の基地を自由に使うには事前協議が必要で ありそれに反して白紙委任した岸首相の密約は確かにあった。それは遺憾な 事ではあるが今は失効している。 米国が在日米軍基地から出撃しようとすれば事前協議の対象になる。しかし それ以来米国からそのような協議は行われた事はない。求められた場合許可 するかどうかはその時の政治的判断だ。 これである。 ところが、ペリー元国防長官の証言が事実であれば福田首相はその答弁書 でウソをついていた事になる。 もっと重大な事は1994年にペリー元国防長官が、在日米軍の自由使用の 許可を求めてきた時に、一体政府はどのような返答を米側にしていたか、と いう事である。 この点について12月2日の日経新聞は、当時の外務次官であった斉藤邦彦 氏の次のような発言を掲載している。 「自分は何も聞かされていなかったが、(政府内で)意見を求められていれ ば『(在日米軍の使用許可について)イエスと言ってください』と進言して いた」、と。 とんでもない発言である。 日米外交、安保の責任者である外務省の事務次官が聞いていないなどという ことが考えられるだろうか。退職したとはいえ外務省の最高幹部が、戦争が 起こったら日本の米軍基地を米国に自由に使わせろ、などという事を公言する 事を放置したままでいいのか。 ここで紹介した一連の日経新聞の記事は、北朝鮮の砲撃によってもたらされ た朝鮮半島の危機的状況の中で、極めて重大な意味を持っている。 私が今日のメルマガで言いたい事はここからである。 このような重要な情報公開が日経新聞によって行なわれたというのに、護憲 政治家たちは一体何をしているのだろう。 いまこそ休会中審議を求め、この日経新聞の記事について国民に代わって 質問すべきではないのか。 ペリー証言は事実なのか。 事実だとすれば、その時どう答えたのか。 外務次官は知らないと言っているが、それでは誰がこの問題を受け止めどの ように米国側に返答をしたのか。 現下の朝鮮有事に際して米国側から基地の自由使用について確認を求められて いるという事はないのか。その場合、斉藤次官が言っている通り許可をするのか。 私が強調したいことはこうだ。 情報開示だけで終わりにさせてはいけない。それが政策に反映されてはじめ て開示された情報の価値が活きるのだ。 我々はそこまで求めなくてはならない。 メディアはそこまで報道しなければいけない。 了
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