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天木直人のメールマガジン ― 反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説

天木直人(元外交官・作家)

天木直人

米国が戦争を始める場所は中東である。アジアではない   
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□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン2010年12月5日発行第241号 ■       ===============================================================    米国が戦争を始める場所は中東である。アジアではない        ===============================================================  連日、北朝鮮の危険性と、それを牽制する米国主導の軍事演習が、当たり前 のように報じられている。  美しい公海が悲鳴を上げているに違いない軍事演習を、とがめる声は皆無だ。  いつから日本の政治家たちは平和に対してここまで鈍感になってしまったの だろうか。  どうしてメディアは反戦を訴える事を止めてしまったのか。  国民は菅政権のこれほどまでの対米従属外交への傾斜を、正しいと本気で 思っているのだろうか。それとも何も考えていないのか。  しかし、いかに北朝鮮が挑発行動を見せようが、そして韓国に限定的な攻撃 を行なおうが、米国は決してアジアでは戦争を行なわない。  米国が戦争を行なう場所は中東である。  11月18日の毎日新聞「深読み」において、カイロ支局の和田浩明記者が 書いていた。  表向きには静かな中東だが来年早々にもレバノンで戦争が起きるという観測 が絶えない、と。  その理由は、レバノンの反米シーア派組織ヒズボラが、年末から年始にかけて 予想される国連特別法廷で訴追されるからだという。  レバノンでは05年2月にスンニ派のハリリ首相が、護衛車を含む車列もろ とも爆破されるというレバノン史上に残る衝撃的な事件が起きた。  誰もがレバノンを占領し続けてきた隣国シリアの仕業だと思った。  しかし事情通は声を潜めて言っていた。イスラエルの仕業だと。  爆破事件に一番衝撃を受けたのはドイツの警備会社だったという。ハリリ首相 がその資金力に任せて張り巡らせたドイツ製の最新式探知装置の防御を、いとも 簡単に破ってリモコン爆破ができる能力を持つ者は、イスラエルをおいてほかに ない、と。  国連は、ハリリ首相の後を引き継いだハリリ首相二世の要請で、早速調査委員 会をつくって調査を始めたが、いつまでたっても犯人は特定されない。  いったんはレバノン治安当局幹部4人が拘束されたが証拠不十分で釈放され、 以来容疑者の不在状態が続いていた。  そんな中で、爆破事件から5年以上経ったいま、にわかにヒズボラが訴追され るという観測が強まっているという。  そうなればヒズボラは黙っていない。  ハリリ政権から閣僚を引き揚げ、レバノンは再び内戦に突入する、という。  私はレバノン大使の頃の事を思い出す。  暗殺されたハリリ首相も、捕まった4人の容疑者も、レバノンを占領していた シリアの高官も、シリア政府の傀儡と言われていたレバノンの大統領も、 ヒズボラの指導者も、彼をあやつるイラン大使も、そしてイスラエルの代理人と 言われている者たちとも、一通り付き合ってきた。  そして、レバノンに最も影響力のある米国大使と、その米国を牽制するシラク 大統領の懐刀であったフランス大使とも、言葉を交わしてきた。  いま、彼らすべての顔が浮かぶ。  レバノンは、いまも昔も、戦争の間につかの間の平和を享受する悲劇の国だ。  そのレバノンでまた戦争が始まるのか。  そう思っていたら、11月27日の東京新聞はカイロ発の小さな記事で、 ハリリ首相二世がイランを訪問するという記事を掲載していた。  ヒズボラへの影響力を持つイランに対して、ヒズボラの武力行使だけは抑え て欲しいという協力要請の訪問ではないか、というのだ。  この訪問が奏功することを願わずにはいられない。  しかしたとえイランがヒズボラを抑えても、戦争が起きるかどうかを決める のは米国である。  この年末、年始に内戦が起きるかどうかはわからない。  しかし中東では必ず戦争が起きる。  なぜならばイスラエルが平和を望まないからだ。  平和が訪れるとイスラエルのパレスチナ占領の名目が失われる。パレスチナ 国家の誕生を認めざるをえなくなる。それだけはイスラエルは認められない からだ。  だからイスラエルはあらゆる形で中東に戦争を起こす。中東をたえず戦争状態 にしておく。  そのイスラエルを放置し、加担する国こそ米国だ。  米国が望むときに戦争は起きる。  これがレバノンの事情通が口をそろえて私に語っていた事である。  このレバノンの体験が私の原点となった。  在日米軍は、決して日本を守るためにあるのではない。  米国の戦争のためにあるのだ。  そして米国の戦争は、冷戦が終わって久しい今、決してアジアでの戦争の ためにあるのではない。  北朝鮮への攻撃の為にあるのではない。ましてや中国との戦争の為にあるの ではない。  アジアの脅威を煽って、中東の戦争のための米軍を、日本の予算で日本の領土 で訓練、維持し続ける。  それが日米同盟の実態である。  日本はいつの日か日米同盟から解き放たれなければならない。  この事に日本国民は気づかなければならない。  このメルマガを書いている背後でNHKのスペシャルドラマが放映されている。  司馬遼太郎原作の「坂の上の雲」のドラマ化だ。  その中でこういうセリフが流れていた。  外交官と軍人が世界史の中でもっとも華やかなりし時代であった、と。  とんでもない。  軍事力で他国を征服する事が当然の時代の外交や戦争が、どうして華やか なのか。  その役割を担わされた政治家や外交官や軍人が、どうして格好がいいのか。  私は子供の頃、親から聞かされた軍歌にあこがれ、軍神広瀬や予科練の七つ ボタンを格好のいいものと思った事があった。  なにもわからない子供の頃はそれでいい。  しかし、人間は成長しなければならない。  帝国主義は過去の遺物だ。戦争は何があっても避けるべき絶対悪だ。  それに気づかないまま一生を終わる事ほど、愚かな事はない。                              了

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