□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン2010年11月30日発行第231号 ■ =============================================================== これまでとは違った外交文書公開の報道 =============================================================== 11月26日に外交文書の公開が行なわれた。それを11月27日の各紙 が報じていた。 ところがいつもの外交文書の公開報道とどこか違う。 この事に気づいた者は事情通だ。 気づいただけではなく、その理由が、外務省の外交文書の公開方法が民主党 政権になって変わったからだと知っている者はもっと事情通だ。 朝日新聞だけがその事を説明していた。その要旨はこうだ。 すなわち、外交文書については1975年に、「原則として30年で公開」 という方針を外務省は決めた。 しかし現実には76年から昨年09年まで、外務省は公開すべき文書のすべて を公開せずに恣意的にファイルを選んで公開してきた。 日米関係や安保問題に関する機密文書を下手に公開すれば国会で野党に追及 されるため、どうしても消極的にならざるをえない(外務省幹部)からだ。 おまけにどの文書が公開できるかを判断する担当職員や専門家を十分に配置 してこなかった。彼らでは判断できないのだ。リスクをおかすのが面倒なのだ。 その結果多くの公開すべき文書が地下倉庫に眠る事になった。 政権交代が起き、日米密約を明らかにした岡田前外相は、今年5月に外交文書 を『30年たてば自動的に公開する』という原則を盛り込んだ『外交記録公開 に関する規則』をつくった。 以来その規則が適用されるようになった。今回の外交文書の公開がそれである。 しかし、このような朝日新聞の説明だけでは、今回の各紙の報道振りが今まで と違っている事の理由はわからない。 本当の理由はこうだ。 かつてある記者が新聞紙上でこうぼやいていた事があった。 原則すべての外交文書を公開するのはいいが、そのおかげで外務省はいままで のように要旨を事前にメモにして配ったり、どこがポイントなのかを説明する 説明会を開かなくなった。これでは情報公開の逆行ではないか、と。 これは新聞記者の甘えである。 そうなのだ。今までは外交文書の公開の時は外務省が十分な時間を与えて事前 に記者達に配り、それを記事にする時間的余裕を与えていた。おまけにご丁寧に どこがポイントか、どこを記事にすればいいか、教えていた。 だから各紙は一斉に同じような記事を大きく報道することが出来た。 ところが原則公開になったため、外務省はとてもそこまで手が回らなくなった。 文書は原則公開してやる。膨大な文書となるぞ。いいだろうな。あとはお前達で 好きなように報道しろ、文書がすべてを語っているから、と突き放したわけだ。 もちろん政治学者や歴史学者に頼んで時間をかけて分析してもらったら立派な 記事が書ける。 しかし新聞はスピードが第一だ。各社との競争だ。 発表された翌日に報道しないと意味がなくなる。 いきおいその報道は消化不良で、おまけに各紙によって強調するところが異なっ てくる。 沖縄返還時の日米密約がらみは各紙の共通の関心事である。だから米国が沖縄 を返還するかわりに日本は繊維輸出を規制する、いわゆる「糸と縄の取引」の 密約があったことは各紙とも書いている。 ところがその他の部分ではマチマチなのだ。 たとえば毎日新聞は、東京裁判におけるA級戦犯の釈放時期を、米国は当時 裁判中の米兵の犯罪(ジラード事件)の判決が出るまで延期した、という史実 を大きく報じていた。 朝日新聞は、沖縄の米軍基地が、朝鮮戦争を境に「日本を監視するための基地」 から共産主義との戦いの「最前線の戦略拠点」と変わった、という見方を防衛庁 がしていた、と報じていた。 読売新聞は、返還前に沖縄に配備されていた核搭載可能なミサイルについて、 米国は「国内手続き上何らかの発表が必要」としたのに対し、日本政府は 「(国会で)責められる事になる」といって公表しないように要請していた事を 報じていた。 外交文書開示のたびに報じられてきたこれまでの各社一律の報道とは様変わり である。 しかし、これには弊害もある。 各社によって報道がバラバラなので、読者にとっては何が重要なのか、わから ないままに、重要な公開情報が見過ごされてしまうおそれがある。 ひょっとしたらこれが外務官僚の悪知恵なのかもしれない。 新聞各社に要望したい。 時間をかけてもいい。報道各社は一回きりの報道で終わらせずに、学者や歴史 専門家に頼んで公開された外交文書をくわしく読み解き、いつかの時点で我々に その意義を教えて欲しい。 何度でも報道してほしい。 よっとしたら外務官僚が見過ごしている重要な情報が公開されているかも知れ ないのだ。 外務官僚主導の外交の実態を明らかにして、今後の外交の監視に役立たせて もらいたいと思う。 了
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