□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン2010年11月4日発行第176号 ■ =============================================================== 米軍に占領され続けるこの国の領空 =============================================================== 尖閣諸島問題や北方領土問題で大騒ぎをしている政府・メディアであるが、 米国によるこの国の領空占領については黙認したままだ。 その事によって日本国民の安全がどれほど危機にさらされている事か。 いまこそ国民はそれを知らなければならない。 月刊情報誌「選択」の最新号(11月号)に「返ってこない米軍『横田空域』」 という注目すべき記事を見つけた。 それは一言で言えば日本の領空は米軍用機が最優先されて管制されている ということだ。 米軍によって日本の領空は占領されているも同然なのである。 おりしも羽田空港の国際化がメディアで盛んに煽られている。世間は歓迎で 一色だ。 そもそも成田や関空があるのになぜ羽田の国際化が重要なのか。 多くの不採算空港を地方にばら撒いたのは国交省ではなかったのか。 その御用シンクタンクとして悪名の高い運輸政策研究機構が出した重要予測 を鵜呑みにして急がれた羽田空港の拡充である。 しかし、その事はここでは問わない。 「選択」の記事が指摘しているのは、いくら滑走路を増やし空港の機能を強化 しても、そして世界の航空機の離着陸数を増やそうとしても、その空域が米軍に 占領されたままでは危険極まりないというゾッとするような現実である。 「選択」の記事は言う。 横田空域は戦後、確かに段階的に返還されて来た。しかし2008年9月の 時点で全体の約20%が日本に返還されたのみで、残る80%の返還交渉は まったく進んでいない、と。 「羽田上空の渋滞緩和には横田空域の完全返還が最も有効」(国交省幹部) である。 それにもかかわらず、「普天間基地問題で米国とは今、最悪の関係。 (横田空域の返還を要求することなど到底無理である事は)外相になった前原 前国交相が一番よくわかっている」(外務省幹部)、と。 「選択」の記事はさらにこう言う。 実は民主党政権によって普天間基地問題がこじれる前から、つまり小泉・ ブッシュの時代の時から、米国は横田飛行場の運用上の能力を日本には 指一本触れさせないと日本に命じていた、と。 在日米軍のために横田飛行場を日本に全面返還することは当面考えられない。 新たな空域の返還も考えていない(米国防総省筋)、と。 その一方で、「選択」は次のような見方がある事を紹介している。 「フィリピンやシンガポールなどから米軍が次々撤退している中、こんな 広大な空域を米軍の支配下に置かせている日本の突出感は否めない」(防衛省 幹部)。 なぜ米軍は横田飛行場とその空域を持ち続けようとするのか。 その鍵は在韓米軍の去就にあると「選択」の記事は言う。 すなわち米軍は戦時作戦指揮権を2015年に韓国側に引き渡すことで合意 している。 米軍が他国の作戦指揮の下で戦う事は考えられないので2015年以降は 米軍は韓国からも撤退する。 しかし在日米軍だけは米国の対アジア戦略の拠点として残す。 横田飛行場の戦略的重要性が高まる。横田飛行場の管制権は手放せないのだ。 「選択」のその記事は次のような言葉で締めくくっている。 「日本の空は依然『軍政』が敷かれているのである。『安全保障問題のプロ』 を自任し、羽田の国際化を日本経済復活の起爆剤としてぶち上げた前原外相以下、 菅内閣は、5本目の滑走路だのゼネコン支援だのと考える前に、もう一度 『返ってこない空』の理由を直視すべきだ」 尖閣問題や北方領土問題で大騒ぎする前に、米軍に占領されている日本の現実 に目を向けるべきであると「選択」の記事は教えてくれているのである。 了
天木直人のメールマガジン ― 反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説
天木直人(元外交官・作家)