□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン2010年11月3日発行第174号 ■ =============================================================== 前原一人に振り回され、崩壊する日本外交 =============================================================== 日本外交がとんでもない事になりつつある。 前原一人に振りまわされて日本外交は破滅に向かっている。 情けないの一言である。 外交に疎い一般国民にはその深刻度がわからないかもしれないが、いま われわれの目の前でくりひろげられている光景は、戦後の先達たちが苦労 して築き上げてきた外交の積み重ねが音を立てて崩れ落ちている光景なのだ。 菅首相は呆然自失の状態で前原外相にすべてを任せている。 仙谷官房長官もまた外交については知見も構想もない。もっぱら内政上の 見地から前原外相に口を挟む程度だ。それを前原は一蹴している。 岡田幹事長は外務大臣を歴任しておきながらその外交的センスはゼロだ。 前原を後任の外相に選んだのは岡田である。 今は小沢喚問で精一杯だ。 要するに今の民主党の政治家の中で、前原に向かって外交を説く政治家は 一人もいないのだ。 それをいい事に民主党政権の外交は前原一人が取り仕切っている。 その前原が、まともな外交をしていればいい。 ところが、外交・安保の専門家であるとメディアにおだて上げられ、国民も そんなものかと思い込まされてきた。 最近では首相候補ナンバーワンであるという。悪い冗談だ。 その前原が、戦後の日本の外交を担ってきた多くの政治家や官僚たちの努力を、 一瞬にして水疱に帰してしまおうとしているのだ。 それを誰も止められない。政治家も官僚もメディアも、前原の外交が如何に 稚拙で、一人よがりであるかを正面から糾弾する者はいない。 かつての指導者たちが苦労して棚上げしてきた尖閣問題をあっさり否定して ここまで日中外交を損ねてしまった。 その前原が今度は北方領土問題で無意味な強硬姿勢を示している。 それが効果のある毅然とした本物の外交であればいい。しかし実績を伴わない 強硬姿勢のパフォーマンスであるから始末が悪い。 その典型が河野駐露大使の一時帰国命令だ。 このニュースが11月3日の各紙のトップニュースとして報じられている。 笑止千万だ。こんな無意味な外交の遊びがどうしてトップニュースなのか。 メディアもまた思考停止状態だ。 なんのための一時帰国命令であるのか。 それがメドベージェフ大統領の北方領土訪問に対する抗議であれば、一時帰国 ではなく大使の引き上げだ。 大使に召還命令をだして明確なメッセージを送るべきだ。 現地の事情を聞くための一時帰国なら税金の無駄遣いだ。 河野も、その前任者の斉藤も、私はよく知っている後輩だ。 彼らはそれまでのキャリアでロシアとは何の関係もなかった外務官僚だ。 要領だけで出世し、外務省だけで大使のポストを独占、たらいまわしして 就任した大使たちだ。 彼らがまともな仕事をしてこなかったから今回のような大統領の北方領土問題 が大騒ぎとなったのではないか。 彼らが北方領土問題についてのロシアの立場を正しくつかんで本国政府に報告 していたなら、まさかAPECを前に北方領土訪問はしないだろうとたかを くくって慌てふためく事にはならなかったはずだ。 おそらく彼らは着任と離任の挨拶のほかは、ただの一度もロシアの大統領と 面談した事が無いほどロシア中枢との関係が希薄であるに違いない。 そんな大使に現地情勢を聞くために一時帰国させる必要がどこにあるのか。 領土問題の攻防はその時々の国力の差で優劣が変化する。 今の弱体、不統一菅政権ではどんな手を打っても無意味だ。 それでも領土問題は毅然とした対応を示し続けなければならない。 そのためにはパフォーマンスではダメだ。 もし本当に日本が北方領土を失いたくなければ、政治家が主導して国民的運動 を起こさなければならない。 政治家が挙党一致で北方領土は譲れないという国会決議を直ちに行うことだ。 北方領土をわが国の国会議員が大挙して訪問することだ。 もっといえば北方領土で緊急の首脳会談を開く事を提案するのだ。 ところがただの一人として政治家が行動を起こそうとしない。 北海道選出の大物議員は大勢いるというのに誰一人として声をあげない。 政局として菅政権の無策ぶりを追及しているだけだ。 北海道とは関係の無い栃木県のみんなの党の渡辺善美が一人気勢をあげている。 何もかもデタラメだらけだ。 デタラメついでにもう一つメディアのために取材のヒントを与えておきたい。 一時帰国の河野大使の日程を詳細にフォローせよ。 彼が前原外相に報告する事だけを記事にするのではだめだ。 河野駐露大使が今回の日本滞在中に行なうべき事は、日本の政界、財界、 メディア、国民に対してロシアの状況やメドベージェフ大統領の訪問の背景 など説明させることだ。 そして現状打開のためにどのような政策を日本は取るべきか、について問い ただす事だ。 そのような事をすることなく、この一時帰国の日程を使って休暇まがいの事を しないか、それを監視するのだ。 一時帰国から帰任までの日程をきめ細かくフオローして、一瞬たりとも遊びの 時間を持たせてはいけない。 それほど日露関係は緊張関係の只中にある。 前原外相のパフォーマンスに協力するためだけの一時帰国であれば事業仕分け されなければならない。 了
天木直人のメールマガジン ― 反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説
天木直人(元外交官・作家)