□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン2010年11月1日発行第171号 ■ =============================================================== 尖閣問題をめぐる米中の外交戦にこそ注目すべきだ =============================================================== 今日11月1日の読売新聞は、ベトナムでのアセアン関連首脳会談などの 日程を終えたことによって菅首相は中国に翻弄され続けた外交に一つの区切り をつけた、として菅首相の外交を評価する記事を掲載している。 「尖閣」問題での冷静な対応をフィリピンのアキノ大統領などは評価した。 レア・アースの多角化など「脱中国依存」への布石も打った。米国の対中国 牽制発言も引き出した。後は11月中旬に横浜で主催するAPEC首脳会議での 采配が真の正念場となる、などと書いている。 驚くべき楽観論だ。本質を見誤った驚くべき劣化した記事だ。 その一つ一つについては反論すべき材料は山ほどあるがここではその中で 私が最も注目する米中関係について、書く事にする。 誰も書かないが後になってその正しさが証明される事になるだろう。 今度の尖閣問題をめぐる関係諸国の動きの中で、最も重要な動きは米中間の 外交戦であった。 そしてその外交戦で中国が米国に勝ったことである。 日本のメディアは日米同盟の重要性ばかりを唱え、日米が協力して中国の 領土的覇権主義を牽制した、その結果中国は国際的にも批判される事になった、 などという事がしきりに報じられた。 本気でメディアがそう書いているとしたら情けない話であるが、無知な国民を 惑わす意図的な情報操作なら悪質だ。 しかしメディアがいかに情報操作をし、中国の脅威を訴えて日米同盟の重要性 を国民の意識の中に植えつけようとしても、現実の米中関係はその方向には 向かわない。 菅首相と温家宝首相との会談が不成立になって大騒ぎをしている報道の中で 極めて重要な記事があった。 それは中国の楊潔篪(よう・けっち)外相がクリントン米国務長官とのハノイ における外相会談の場で、尖閣問題に米国は口を出すな、言葉を慎め、と抗議 したことである。 ちなみにこの楊潔篪という外相は若くしてブッシュ大統領(父)の通訳など を通して親しくなり米国留学時代にはブッシュ家に下宿していたという。駐米 大使を経て外務次官、外相になったという。 これだけの米国通であるからこそこのうような対米外交ができるのだ。 中国はここまで考えて人材を育てるのだ。 外務官僚の上がりのポストとして安易に駐米大使を任命し続ける日本には 真似の出来ない対米外交である。 これに対し米国側の反論は一切報じられていないから、おそらくこの中国外相 の発言は事実であり、それに対しクリントン国務長官は譲歩したのである。 同じ外相会談で、クリントン長官は尖閣諸島をめぐって悪化する日中関係に ついて日中の仲介をするため日米中の3カ国外相会談の開催を提案したという。 おそらく中国の抗議に対する返答のつもりで提案したのだろう。 しかしその提案さえも中国は受け入れなかった。 11月1日の各紙の報道によれば、ハノイから中国の海南島に向かった クリントン長官は、そこで戴秉国(たいへいこく)国務委員(副首相級)と 会談したが、そこではこの提案は話題にならなかったという。中国がに反応 しなかったのだ。 そのかわりに来年初めに予定される胡錦涛国家主席の訪米の重要性について 米中双方が確認したという。 この一連の報道が物語っている事は中国の対米外交の勝利ということだ。 米国の要求をはねつけてなお米国がそれに従わざるを得なかったという事実 である。 これは物凄い事である。 中国がこのまま順調に発展していけば中国の対米外交力はさらに高まる だろう。経済力においてはもとより国土、人口、そして軍事力においても 米国に優る国となる。 アヘン戦争以来欧米諸国の支配に甘んじ、同じアジア人の日本にさえも侵略、 支配されたアジア人の中国が、世界史上はじめて白人帝国主義国家と対等に 渡り合う国になろうとしているのだ。 日本が果たせなかったことだ。果たせなかった日本は一転して白人米帝国 主義に屈従した。屈従したどころかそれを国是として生き延びようとした。 日本が中国に反発する大きな理由は、みずからが果たせなかった事に対する 悔しさと嫉妬の潜在的心理から来ているのではないか。 前置きがながくなった。このように分析した上で私は以下の通り私の持論を 書く。 中国も米国もカネ(資本)と力(軍事力)で他国を優越しようとする政策を 進める限り世界の信頼を得る事はできない。 私は中国は米国ほど攻撃的ではなく、むしろ米国からの防御のために米国に 負けない国力を保持しようとしていると考えているが、それでも覇権を目指す 国であることには変わりはない。 日本はそのような覇権国家を目指す国になってはならない。なる必要はない。 日本は世界の多くの国とともに共生を目指す国になるべきだ。憲法9条を 掲げて世界の共生をめざす国家の模範となる国を目指すべきなのである。 日米同盟を強化して中国と対抗しようとすることはそのような方向とは真逆 である。 米国から利用され、必要が無くなれば捨てられる。 その一方でいたずらに中国に迎合する必要もない。 日本は日本の立場を堂々と中国に申し入れればいいのだ。 世界に向かってその正しさを訴えていけばいいのだ。 いまこそ日本は日本の将来を見据えた自主、自立した外交に目覚めなければ ならない時である。 なぜそれを提唱する政治家が日本に現れないのだろうか。 了
天木直人のメールマガジン ― 反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説
天木直人(元外交官・作家)