□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン2010年10月31日発行第170号 ■ =============================================================== 尖閣問題は日本と台湾との間にも存在する事を忘れてはいけない =============================================================== 尖閣問題をめぐって日本と中国の対立ばかりが騒がれるが、台湾もまた 日本との間でこの問題で対立している事を忘れてはいけない。 同時にまた尖閣問題は中国と台湾の間での問題でもある。 そして今回の尖閣問題については中国と台湾が団結して日本を非難している。 この事実を正面から取り上げるメディアはない。 唯一産経新聞が10月31日の紙面で取り上げている。 台北支局長の山本勲氏が「東亜春秋」というコラムで指摘している。 その着眼点は評価したい。 ところがそこに書かれている主張が間違っているのだ。 結論を一言で言えばこうだ。 ・・・中国は尖閣問題を日台分断と中台統一の突破口にしようと狙っている。 これを防ぐには、台湾を反日で一つにしかねない(日台間の)漁業問題の解決を 急ぐ必要がある。日台の特別な歴史関係にかんがみて台湾漁民の操業海域を 広げるなんらかの暫定取り決めを結ぶ。そのためには官僚ベースで続けてきた 従来の日台漁業交渉ではらちがあかない。政治主導を唱える民主党政権は高度 な政治判断を踏み切るべきだ・・・。 つまり中国の日台分断戦略に対抗するために台湾に対しては超法規的政策を 行なえ、それを菅民主党政権にとれと言っているのだ。 あまりにも非現実的で有り得ない提言だ。 実はこのような提言をしなければならないほど日本の右翼的反中派は、今度の 尖閣問題をめぐる日中対立に関し苦境に立たされているということなのだ。 いわゆる清和会(旧福田派)を中心とする日本の政治右派は反共、反中国で あったが1971年のニクソン・キッシンジャーの米中接近によってはしごを 外された。 その後田中・大平によって日中国交回復が行なわれ一つの中国を認めた後も 日本の政治右派には親台、反中国を押し通す勢力が存在し続けた。 しかしいまや中国が文字通り大国化し、米国の中国重視が鮮明になり、台湾の 馬英九政権の対中外交も現実化しつつある。 とくに尖閣問題では、馬英九総統は、かつて青年期には「釣魚島は中華民国領」 であると叫んでいた活動家であったという。 今回の尖閣諸島沖で起きた中国漁船衝突事件でも馬政権は台湾活動家の乗った 漁船1隻の出航を求めたという。 尖閣問題で中台が対日政策で一致する事はもはや動かしがたい事実なのである。 その現実を中国の日台分断作戦だと捉えるのは間違いである。 その分断作戦に対抗するために、台湾漁民だけに操業海域を広げるなどという 政治決断を求める事はもっと間違いである。 それを行なえば日本の外交は支離滅裂となる。 今、政治決断が必要なのは中国政府との関係である。 不毛な領土権の主張を繰り返して日中関係を袋小路に追い込む愚を避け、 日中経済関係の強化を優先する。その必要があるのは台湾だけではない。中国 とこそ、それを進めるべきなのである。 その当たり前の事を産経新聞がわからないはずはない。 分かっていながら対中強硬政策を唱え続けるしかない産経新聞もまた、現下の 尖閣問題で追い込まれているということである。 了
天木直人のメールマガジン ― 反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説
天木直人(元外交官・作家)