□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン2010年10月30日発行第169号 ■ =============================================================== 日中首脳会談の不成立をどう考えればいいのか =============================================================== ベトナムでの日中首脳会談は結局実現しなかった。中国が首脳会談に応じ なかった。 この事が10月30日の各紙のトップニュースとして報じられている。 週末のメディアもこのニュースで持ちきりになるだろう。 いや、11月中旬に横浜で開かれるAPEC首脳会議の日まで、日中関係に ついてはこれから連日大きく報道され続けるであろう。 その前に一回だけ私の考えを述べておく。 後は菅・仙谷民主党政権の外交力のお手並み拝見だ。 我々は日本の対中外交をどう進めていけばいいのか。 その正しい判断をするためには、正しい情勢把握が不可欠であることは言う までもない。 たとえば今回のベトナムにおける日中首脳会談の不成立である。 これまでの日中政府双方の言動を正確に観察している者ならわかるが、中国 側はただの一度も首脳会談を明確に約束した事は無かった。 それどころか前原外相の度重なる対中強硬発言を前に中国側の反発は日増し に高まっていた。 そもそも日中首脳会談などは出来そうもない状況下にあったのだ。 それにもかかわらず菅民主党政権の関係者はあたかも日中首脳会談が開か れるかのように発言してきた。 というよりも必死になって首脳会談を実現させようとしてきた。 首脳会談を実現することによって菅政権のさらなる失墜を食い止めようと 必死だった。 その一方で菅政権の外交最高責任者である前原外相は中国に喧嘩を売るような 発言を繰り返してきた。 これに対して中国政府は激しく反発した。 これで日中首脳会談が実現すると考えるほうがおかしいのだ。 ところが日本のメディアはその事をまったく報道してこなかった。 あたかも今度の首脳会談不成立が唐突なものと言わんばかりだ。 その報道振りも、「突然の中止」、とか「土壇場で見送り」などと言った、 中国側が一方的に会談を中止したかのような表現に終始している。 とんでもないミスリードである。 私が会談の中止や延期という言葉を使わず、あえて首脳会談不成立という 言葉遣いにこだわる理由がここにある。 しかもこのミスリードの責任の一端は前原外相にある。 前原外相は中国外相との会談のあと、会談は前向きであった、有意義で あったと、あたかも外相会談で首脳会談の合意ができたかのような発言をした と報道された。 しかし、それは本当であったのか。ウソではなかったのか。ウソと言わない までも事実を歪めたのではないか。それが中国側を怒らせた原因では なかったか。 仙谷官房長官が中国漁船の船長を釈放しなければ「APECが吹っ飛んで しまう」と言っていたことが暴露されたのは10月18日の参院決算委員会に おける丸山和也自民党議員の質問においてであった。 このまま日中関係が批判の応酬を繰り返せば、その仙谷官房長官の懸念が現実 のものになるおそれが出てくる。 だからといって中国に対する弱腰外交を見せては世論の支持を失う事になる。 おりから尖閣漁船衝突事件のビデオが公開される。それを見た世論はさらに 硬化するだろう。 菅・仙谷民主党政権は深刻なジレンマに直面する事になる。 もはやここまで来たら菅・仙谷民主党政権は小手先のごまかしを繰り返して 事態を打開することはできない。 真実を国民に知らせて国民の正しい判断とともに対中外交を行なうしかない。 メディアは国民を誤誘導することばかりに躍起になるのではなく、情報源を 政府に頼るのではなく、自ら汗をかいて真実の報道に専念すべきだ。 私の立場は尖閣問題を棚上げして日中友好関係を確実に強化していくという 立場である。 従来の日中双方の政治責任者の知恵を尊重する。 しかしそれに異論を抱く国民が多い事も知っている。 だから菅・仙谷民主党政権は、このまま対中関係の改善を行う事が出来な ければ最後は解散・総選挙を行なって国民に問う他はないと思う。 そのことはまた中国政府に対する最強のメッセージにもなる。 おおげさにいえば日中関係は歴史的な大きな曲がり角に来ているのだ。 政治家もメディアも日本国民も、もっと、もっと真剣に現下の日中関係を 捉えなければいけない。 娯楽番組のネタにして政治家や御用学者や官僚OBの戯言を繰り返して いる暇はないのである。 了
天木直人のメールマガジン ― 反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説
天木直人(元外交官・作家)