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天木直人のメールマガジン ― 反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説

天木直人(元外交官・作家)

天木直人

「尖閣をめぐる日中密約はあった」という週刊アエラの記事
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□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■  天木直人のメールマガジン2010年10月22日発行第157号 ■       ===============================================================             「尖閣をめぐる日中密約はあった」という週刊アエラの記事     ===============================================================  尖閣問題から端を発した日中対立は、中国非難と中国の脅威ばかりが報じ られて、肝心の日本政府の対応はどうあるべきかについては一切論じられる 事がない。  そんな中で週刊アエラ10月25日号のスクープ「日中『尖閣密約』あった」 という記事は注目すべき重要な記事だ。  センセーショナルな見出しとは裏腹に、その記事をよく読んで見ると日米 核密約のような明確な外交密約書はどこにもない。  あるのは日中当局間の危機管理の知恵という状況証拠である。  今回の事件の前に起きた尖閣諸島領有権がらみの大きな事件は、2004年 に小泉政権下で起きた中国活動家7人の魚釣島に上陸事件であった。  あの時も逮捕した(出入国管理法にもとづく不法入国による逮捕)。  対中強硬路線をとっていた小泉首相もまた前原外相のように「法令に従う のは法治国家として当然だ」などと当初記者団に語っていた。  しかし、関係省庁の幹部らの協議の末の結論は、「双方が領土権を主張 すればお互い引くに引けなくなる、戦争になる、逮捕はしたが拘留を長引か せてはいけない、強制送還して事態を沈静化する」であった。  この関係省庁の結論を福田康夫官房長官が小泉首相に伝え、説得して、 強制退去処分で終わらせた。  最終的には小泉首相もそれに従い、記者会見で「法に基づいて適切に処理 すると同時に、問題が日中関係に悪影響を与えないよう大局的に判断する という基本方針を関係各省に伝えた」と述べた。  そして、そうした一連の経緯の中で、日中間で次のような約束が出来上がった とアエラは書いている。  すなわち日本側は上陸させないように事前に押さえ、違反者を見つけても 拘留しない。そのような事態を起こさないためにも中国側は魚釣島への抗議船 を出航させない、という「約束」である。  このような約束の背景には、尖閣諸島の領有権をめぐる日中双方首脳の長い 歴史的な政治的知恵があった。  1978年の日中平和友好条約署名で来日した鄧小平副首相(当時)は次の ように提言したという。  「尖閣諸島の領有問題については双方に食い違いがある。国交正常化の際に はこれに触れないと約束した。今回の平和友好条約交渉でも同じように触れ ないことで一致した。中国人の知恵からしてこういう方法しか考えられない ・・・こういう問題は一時棚上げしても構わない。次の世代は我々よりも もっと知恵があるだろう。みんなが受け入れられる解決方法を見出せる だろう」。  そのような期待とは裏腹に、その後も尖閣諸島をめぐる台湾・香港の活動家 の魚釣島上陸問題は断続的に続いた。  それでも日本側は警察庁、法務省、外務省、防衛庁らが「対処要領」を定め、 逮捕しても拘留せずに強制送還する事にしてきた。  そうする事によって中国側もそれ以上の政治問題化にさせなかった。  これが日中間の密約であり、暗黙の了解であったとアエラは書いているのだ。  そのような密約があったかどうかはもちろん確認されることはないだろう。 政府がそれを認める事はないだろう。  しかしアエラが政府関係者の証言に基づいて書いている解説は説得的だ。  私なりにその長い解説をまとめてみるとこうだ。  菅・仙谷民主党政権には日中間の「約束」が引き継がれていなかった可能性 がある。少なくとも今回は04年のような関係省庁幹部によってかつての 「約束」が話し合われた形跡は無い。  送検するかどうかは前原国交相らが政治主導で仕切り、弁護士の仙谷官房長 が「法治主義」にこだわって決まった。  しかし「約束」を破って強硬姿勢をとった前原、仙谷民主党政権への中国側 の怒りは、温家宝首相のニューヨークでの「必要な対抗措置を取らざるを得 ない」という発言になってあらわれた。  それを知った仙谷官邸は慌てた。  不思議なことに外務省は中国から再三にわたってメッセージを受けていた のにそれが官邸に伝わらなかった。政治主導で決める官邸に対し、体を張って 何かしようとする外務官僚はでてこなかった。  証拠捏造事件で検察人事を握られた検察は、今後起きるであろう検察首脳部 への処分に対する官邸の圧力を感じていた。拘留・起訴という検察の方針を撤回 してまでも官邸の意向を先取りして中国船長を釈放する腹をくくった。  週刊誌のアエラがここまで書いたのだ。今こそ大手新聞は優れた調査報道を 行なって真実を国民の前に明らかにする努力をしなければならない。  国会は、尖閣問題を与野党の政局のダシに使うのではなく、日本の国益のため 菅・仙谷・前原・岡田に代表される民主党の対中外交について、真実を聞きただ さなければならない。  アエラの記事は、最後に本件に関する元外務省中国課長で元東大教授の浅井 基文・広島市立大学広島平和研究所長の意見を次のように掲載していた。  「自民党は対中関係では蓄積があり、靖国参拝を続けた小泉元首相でさえ、 バランス感覚を働かせる事ができた。だが、民主党政権は発言が勇ましいだけ で、日中間の大局を考えておらず、外交的には極めて未熟で何の戦略もない」  同感だ。  私は、今回の尖閣問題がこれほどまでに大きな問題になったのは、「約束」を 破り、しかも公務執行妨害違反で逮捕、拘留、起訴しようとする強硬手段に 踏み切った前原国交相、前原外相の責任だと思っている。  その前原の強硬路線を一旦は認めた仙谷が中国の強硬姿勢にたじろいで 一転して政治介入した無策ぶりにあると思う。  そして何よりも最大の責任は、仙谷・前原の暴走の蚊帳の外にあった菅の 指導力のなさにあると思う。  そして外務官僚をはじめとした官僚たちがみな保身に走って菅・仙谷民主党 政権の政治主導に任せきりになっている現状がある。  この状況は今後も続くだろう。  ということは中国問題は解決しないということだ。  わが国の対中政策は、大局観を欠いた前原の強硬姿勢に振り回されて中国を 不必要に刺激し続け、その一方で、中国との関係をなんとか元に戻さなければ 政権は持たないと心配する菅・仙谷が対中宥和策を模索する。  だからと言って、菅・仙谷には前原らの強硬派を抑える力はない。  菅・仙谷政権が続く限り日中問題は解決しない。その間に日本の国益はどん どんと失われていく事になる。  アエラの記事はそれを見事に教えているのである。                                 了  

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