□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン2010年10月18日発行第153号 ■ =============================================================== 憲法9条改正についての米国の態度 =============================================================== こういう記事を見つけるとどうしても私は興味を惹かれる。 また一つ歴史の一断面を見る思いがする。 国際政治の歴史の真実は、なにも歴史学者や政治学者の研究によって 体系的にまとめられた書物から学ぶだけではない。 それら学者や専門家の努力と研究の成果は貴重であり、一般の国民は その努力の賜物で歴史を知る事になる。 それでも、それらから得る知識は歴史の大河の一滴だ。 それほど歴史をかたちどる登場人物は膨大で、彼らの言動は多様で複雑で、 時として背反的なのだ。 それらの一つ一つに接するたびに私は歴史を学び直す思いだ。 その繰り返しで真実に少しでも近づくということなのだろう。 10月18日の産経新聞連載の古森義久氏の「体験的日米同盟」は、憲法 9条改正についての米国の態度について、自らのインタビューに基づいて 書いている。 ジャーナリストの強みは当事者から直接生の声を聞くことができることだ。 その生の声は脚色して使われる事があるかもしれない。 それでも生の声は貴重だ。 改憲論者である古森氏であるから、結論ははじめから決まっている。 たとえば今回の記事もこういう記事である。 まず古森氏は、江藤淳氏が1980年3月にワシントンのウッドロー・ ウィルソン国際学術センターでの研究発表会で改憲の必要性を訴えた頃は、 米国の知日派では護憲の意見が圧倒的だったと具体的人名をあげて説明する。 たとえば江藤淳氏の講演を聞いていた元駐日公使のリチャード・フィン氏は 「なぜ彼はあんな過激な意見を述べるのだ」、と日本側の出席者の一人に 詰問調で語ったという。 その後レーガン政権時代でも、「日本を永遠にただ乗りさせておく会」なる グループが米国の学者たちの中にあったという。 防衛面では日本に何もさせず、米国に依存させておくほうが望ましい、下手 に軍事力を持たせると危険だ、というわけだ。 エドウィン・ライシャワー元駐日大使もこの考えに近かったという。 古森氏は1992年には米国の知性の代表ともされたジョン・ガルブレイス 氏に質問する機会があったというが、彼もまた次のように語ったという。 「私の見解ははっきりしています。日本は今の憲法を絶対にそのままに保つ べきです。日本がもし改憲をしようとすれば、東アジア、西太平洋地域には 激しい動揺や不安が生じるでしょう」、と。 ところがそれからわずか一週間ほどして、古森氏は、レーガン、ブッシュ両 政権で国防総省の高官や軍備管理の顧問を務めたポール・ニッツェ氏(元海軍 長官)と会って、次のようなガルブレイス氏とは正反対の言葉を聞いたという。 「米国は同盟関係を保つ限り、(日本が改憲することに)反対する必要は ない。日本が九条を変え、軍隊の存在を認知すると軍国主義が復活するなどと いうのは日本を信用していないからです。日本を真に民主主義国家として信頼 するなら、改憲になんの恐れも懸念もないはずです」 要するに古森氏はこれが言いたかったのだ。 わが意を得たりと次のように締めくくっている。 ・・・ニッツェ氏のこの意見はガルブレイス氏と同じ日本原体験をしながら まったく逆だった。その背後には保守とリベラルの基本的な相違があるように 映った・・・ 古森氏はもちろん十分に知っている。 米国は日本の軍事化には反対だ。 いまでこそジャパンハンドラーと言われる米国の日本担当高官たちは、日本 の改憲を歓迎する、などという発言をするようになった。 しかし米国の本質は今でも日本を非軍事国家にとどめておくことに変わりは ない。 それを知っている改憲論者の古森義久氏は、ニッツェ氏のような米国高官が 憲法9条を変える事に問題はない、と言ってくれる事に喜び、その事を教える ためにこの記事を書いているのだ。 ついでに言えば、私が公開情報で知っている知識の中には、昭和天皇が マッカーサー司令官と面会した時、昭和天皇が在日米軍に日本を守ってもらい たいと懇請したのに対し、憲法9条こそ日本を守ってくれるものだと マッカーサー司令官から諭されたという逸話がある。 前置きがながくなったが、これから書くことがこのメルマガの目的である。 私が古森氏の記事の中で最も注目したのは、さりげなく古森氏に語った ニッツェ氏の次の言葉である。 「私の一つだけよく知っている日本語はジリヒンという言葉です」。 この言葉を聞いた古森氏は次のように書いている。 ・・・日本側の戦前の指導者たちは欧米相手の戦争には勝算も講和への戦略 もなく、ただそのままだと日本が「じり貧」になるから開戦を決断した、と みな一様に(ニッツェ氏に)告げたというのだった・・・ ここまで米国人に日本の正体が知られているのだ。 ついこの間まで戦っていたかつての敵である米国要人に、ここまで正直に 当時の実情を話して恥じない日本の指導者たち。 日本が対米従属から逃れられない理由がここにある。 了
天木直人のメールマガジン ― 反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説
天木直人(元外交官・作家)