□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン 2010年10月13日発行第143号 ■ =============================================================== 中国民主活動家のノーベル平和賞受賞と中国批判報道 =============================================================== 中国の民主活動家がノーベル平和賞を受賞した事について中国政府が猛烈 に反発している。 その中国の反発を報じるメディアはいずれも中国批判報道を行なっている。 しかしそのような中国非難報道が、決して人権問題の重要性を最優先して 行なわれているものでない事は明らかだ。 すなわち、中国民主活動家のノーベル平和賞受賞を祝福する振りをして、 たくみに中国たたきをしているのだ。 従軍慰安婦の人権など顧みることのない産経新聞が、今回は中国民主活動家 のノーベル平和賞受賞をどの新聞より喜んで大きく取り上げている事から見て も、それは明らかである。 だからと言って中国を弁護する訳にはいかない。 国家権力が人権を蹂躙する事を認めるわけにはいかないからだ。 だから中国叩きは行き過ぎだ、と中国擁護のような意見を述べる勇気のある 者は出て来ない。 そんな中で、私が見つけた有識者の意見の中で、唯一中国を弁護するかの 如き言論を新聞紙上で行なったのが浅田次郎である。 10月9日の朝日新聞は浅田次郎の次の言葉を掲載していた。 「中国の恫喝に屈せずに劉氏を選んだのは当然のことだ。主権国家と しての中国が抗議するのも仕方のないこと。その抗議を受けたからこそ、 劉氏が受賞するという皮肉な結果となった」、 「この20年くらい(ノーベル平和賞は)極めて政治的な色彩を帯びて おり、問題だ。公正な選考ならいいが、釈然としないケースが続いている。 あまりに政治的に傾斜することは、ノーベル賞の値打ちを落とすだけではなく、 様々な問題を起こしかねない」 私は浅田氏と同様、一方的に中国非難を行う事には違和感を覚える。 しかし、この浅田氏の言い方は、必ずしも十分な説得力はない。正しい 中国擁護にはなっていない。 それでは、今回のノーベル平和賞に絡めて中国たたきをする事の間違いを、 どういうロジックで説明すればいいのか。 私の考えはこうだ。 基本的人権を守ることは人類にとって最重要課題だ。しかし残念ながら国際 社会はいまだ人権よりも国家主権を優位においている。 その現実を克服するためには、人権を抑圧する特定の国を非難するのでは なく、それを契機に、この地球上から人権を抑圧する国をなくしていく努力を 国際社会が行なう事だ。 反体制活動家や少数民族を抑圧している国は中国だけではない。かつてソ連 も反体制作家を弾圧した。 およそ如何なる国も、その国の体制に反対する者を認める事は主権国家の 秩序を守る上で、ありえないだろう。 ミャンマーはどうだ。米国はどうだ。北朝鮮は。イランは。何よりも イスラエルのパレスチナ弾圧はどうか。 日本だって国際的基準から見て決して偉そうな事は言えないはずだ。 程度の差こそあれいまだ国際社会は人権を国家権力より優先する状況には なっていない。 そんな中で、チベット問題の時といい、今回と言い、中国の非民主的状況 ばかりを殊更非難する事は片手落ちなのである。 中国の態度を変えられないのである。 中国の人権抑圧よりももっとひどいイスラエルのパレスチナ弾圧がメディア の非難にさらされず、むしろ米国がそれに加担している。 それをなくさない限り中国もまた変えられない。 思えば人権抑圧をこの地球からなくすということは、世界から武器をなくし 戦争をなくすという崇高な行為と同様に、主権国家で出来ている世界が目指す 究極のゴールである。 中国の人権を殊更に非難する者たちの多くは、同時に又戦争を認める者たち であると私は思っている。 了
天木直人のメールマガジン ― 反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説
天木直人(元外交官・作家)