□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン 2010年9月16日発行 第94号 ■ =============================================================== 産経新聞が小沢批判をする本当の理由 ================================================================ 9月15日の各紙は当然ながら民主党代表選挙の結果を解説する記事で 埋め尽くされていた。 その中で私が最も注目したのは産経新聞の乾正人という政治部長の書いた 「小沢一郎はなぜ負けたか」という記事だ。 その内容は、菅人気というよりも小沢の独断専行的で非寛容な体質が国民 に嫌われたのだ、というものだ。 私がかねてより指摘してきたように産経は菅を評価はしない。小沢を葬り 去った後は菅政権を叩く事になるだろう。 しかし私が注目したのはそんな事ではない。 乾正人政治部長がまことしやかに解説している記事の中に、およそ政治論評 には似つかわしくない物言いのつぎのような感情的なくだりを見つけたからだ。 「・・・(小沢の)メディアの選別も露骨である。持ち上げる(メディア) か、本人に利用価値のあるメディアにはインタビューに応じるが、批判的な 小紙などには鼻も引っかけない(当方は痛くもかゆくもないが)・・・」 ここにメディアの本質が見事にあらわれている。 私の父は朝日の地方記者だった。真面目な新聞配達ぶりを認められて中途 採用で朝日の記者になったノンキャリアだ。 その父親の仕事ぶりを通してキャリアの記者たちの姿を見てきた。 外務官僚時代は霞クラブを通じて彼らと接してきた。 そこで感じた事は、キャリア記者の屈折した心情だ。 キャリア記者にはエリート意識がある。プライドがある。 同時に彼らは自分たちは何も生産しないという負い目がある。 人がつくりだす政策や事件を報じるしかないむなしさを知っている。 つまり自らが世の中を動かす事ができないから、その反動で、自分が書いた もので世の中を動かせるのだ、と思い上がる。 彼らにとっては情報をくれる者が善人で、くれない者が悪者なのだ。 官僚で出世する連中は、そういう記者の生態を知ってうまく記者と接する。 記者はそういう官僚と仲良しになる。 今度のメディアの小沢たたきには色々な説明がなされる。 たとえばメディアと官僚は米国に支配され、米国の意向を受けて反米的な 言動をする者をおとしめる、といった論説だ。 もちろんそのような事情はあるのかもしれない。 しかし本当はもっと単純なものなのだ。 メディアに生きる者もまた人の子だ。 いい情報を得ていい記事を書きたい。 いい記事を書いて出世したい。それに協力する者は味方だ。それに協力しない 者はペンで仕返しをしてみたいと思う。 私はそんな記者を一概に非難するつもりはない。 しかし虚業を隠すためにやたらに居丈高になる記者を何人も見てきた。 そういう記者には私は厳しく接してきた。 厳しくされた記者は当然ながら私に敵対的になる。 しかしすべての記者が敵対的になったわけではない。私を評価して協力して くれる記者ももちろん多くいた。 すべては人間社会の中でよく見られる現象である。 どちらが正しいというものではない。 あえて言えば、人間は、いつも自分の事ばかり考えて行動しているようでは いけないのだろう。少しは他人の事を思いやる心の優しさが必要なのであろう。 わかっていても、なかなかそれができない。それもまた人間らしい。 了
天木直人のメールマガジン ― 反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説
天木直人(元外交官・作家)