□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン 2010年9月9日発行 第85号 ■ =============================================================== 中国漁船の領海侵犯・衝突事件にどう対応すべきか ================================================================ 9月7日に起きた中国漁船の違法操業・衝突事件は、的確な対応を迅速に 要する大きな外交案件だ。菅民主党政権の外交力が試されている。 8日の午後に東京新聞「こちら特報部」の記者からコメントを求められた。 その答えが本日9日の「こちら特報部」に掲載されている。ほぼ正確に書かれ ている。 一言で言えば間髪を入れずに外交で毅然と対応し、いささかも軍事的対立に つながるような反応を招ねかせないということだ。 その事について少し敷衍して説明したい。 およそ領土問題にからむ案件は外交問題の中でも最も厄介な問題だ。それは お互いに譲れない原則論、主権論が絡むからだ。 だからこそ、それを愛国的、軍国的問題に発展させず、政治(外交)で迅速に 対応すべきなのである。 「対応すべき」と言ったのは、すぐに解決策が見つからなくてもいい、と言う 事だ。絶えざる外交交渉を継続する事により問題を封じ込める、これも解決の 一つなのである。 原則を譲らないという意思表示をいくら外交で毅然と貫いても、それが二国間 関係の悪化につながることはない。そうさせてはいけない。 今日の日中関係は双方が双方を必要としている関係だ。関係を悪化させる メリットは双方にない。それは中国政府も知っている。 中国は外交的に強硬な態度を見せる半面、物事をこれ以上大きくさせるつもり はない。日中関係を悪化させるつもりがないから外交的に強硬姿勢をとるのだ。 この外交ゲームに菅・岡田・仙谷民主党政権はまったく負けている。口では 譲れないと筋を通しているが、民主党代表選挙のさなか厄介な問題が起きたと いわんばかりの事なかれ主義の対応である事は明らかだ。 そうではない。民主党代表選挙のさなかに起きたからこそ迅速、かつ毅然と した対応をとるべきなのだ。 迅速に外務大臣級の話し合いを持つべきなのだ。 それが形だけのものでもいい。お互いの立場が平行線のまま終わってもいい。 重要な事は政治的話し合いを行なって日本の立場を主張しておく事である。 その事によってまた事態のこれ以上の悪化を防ぎとめる事ができるのだ。 報道を読んで驚いた。中国外務省が我が国の丹羽駐中国大使を呼んで抗議した という。 順序が逆だ。真っ先に丹羽大使が中国政府を訪れて抗議すべきであった。 ただでさえ民間大使の力量が問われている丹羽大使である。格好の腕のみせ どころである。 なぜその考えに及ばなかったのだろう。なぜ外務官僚はその事を丹羽大使に 助言しなかったのだろう。それとも頭からそんな考えは思いつかなかったのか。 更に言えば、尖閣諸島近辺での中国漁船の領海侵犯はこれまでにも頻繁に 確認されていたという(9月9日産経)。今回の問題が起きるのは時間の問題で あったのだ。 なぜ中国漁船の領海侵犯問題を政治レベルの問題として提起しておかなかった のか。提起するだけでなく将来このような事態が起きることを警告し、それを 両国国民にわからせておくべきだった。そうする事によって中国側を牽制できた はずだ。 最悪なのは、安保条約は日本の施政権下の領域に適用される、などという発言 を米国にさせて軍事的な問題と絡めようとする事である。 日米同盟強化の口実に領土問題を利用するのは外務官僚の間違った対応だ。 それに従う菅民主党政権は外交センスが欠如している。政治指導力がない。 菅民主党政権下の外交を私は本気で心配している。 了
天木直人のメールマガジン ― 反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説
天木直人(元外交官・作家)