□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン 2010年9月7日発行 第82号 ■ =============================================================== 米国の対イラク、アフガン、イラン政策がそこにある ================================================================ 読売新聞一面に「地球を読む」という国際情勢に関する識者の連載がある。 9月6日のそれは「湾岸戦争20年後の教訓」と題するリチャード・ハース 氏の論説である。 リチャード・ハース氏はブッシュ大統領のイラク攻撃の時、国務省企画部長 であった人物だ。イラク攻撃には反対だったがそれを正面から主張すれば更迭 されるか辞職するしかない。そうならないように遠まわしな言い方で反対し 続けた、などと後日ニューズウィーク誌などで語った人物だ。 その要領のよさもあってか、米外交問題評議会の会長におさまって今日に 至っている。 そのリチャード・ハース氏が米国の対イラク、アフガン、イラン政策について その論説の中で語っている。 はたして一般の読者がその論説の深い意味を読み解く事ができるだろうか。 そこには米国の対イラク、アフガン、イラン政策の本質が見事に語られている。 それを私なりに解説してみるとこうだ。 もちろんハース氏の言っている事がそのままオバマ政権の考え方であるとは 限らない。 そしてたとえそれがオバマ政権の考えと一致しているからと言って、それが そのまま実行に移されるとは限らない。国際情勢の変化によって政策の変更は 常にありうるからである。 しかし彼の言っている事は間違いなく米国が考えている事である。 その論説の中で彼はイラク、アフガン、イランに対する政策の違いを要旨 次のように語っている。 「・・・同じイラク攻撃でも湾岸戦争での米国の軍事力行使とイラク戦争の 場合の軍事力行使とは目的そのものに違いがある。 すなわち湾岸戦争はイラク軍のクウェート軍事侵攻という絶対悪を止めさせる 戦争であった。従ってイラク軍がクウェートから撤退した時点で攻撃は停止 された。 しかしイラク戦争の場合は違う。サダム・フセイン政権を排除し、より良好で 永続性のある政権に置き換える事であった。 その成功には長期にわたる軍事駐留と社会建設の訓練と民間専門家と資金と 関心が必要である。 オバマ大統領は撤退を公約し実行しつつあるがその公約を考え直す事になる かもしれない。 そしてたとえイラク新政府が首尾よく誕生しても、たとえば米軍2万人を ずっとイラクに駐留させられるような協定を交渉する事になるかもしれない。 イラクと異なりアフガンの場合は、アフガンの社会や政府を米国が作り出す 努力をするのは考えものだ。アフガンの歴史がそれを教えてくれている。 そんな事をするよりもアフガンの場合は対テロ作戦に的を絞ったほうが賢明だ。 イランの場合は経済制裁を強化してイラン内部でアフマディネジャド政権に 反対する国内勢力をつくりだすことだ。 そしてそれが起こらなかったら、たとえその結果がどうなるか予測できなく とも、軍事力行使を行なうほかはない。 行動しない事はイランの核保有を容認する事であり、それは行動するより もっと危険で、もっと高い代償を払わされるだけだ。 湾岸戦争の教訓が適用されるべきは、イラクやアフガンにもましてイラン なのだ・・・」 以上のハース氏の論説を私なりに解説するとこうだ。 米国はもともとサウディアラビアに次いでイラクを米国の中東に対する安全 保障政策の拠点とする構想を持っている。 より正確に言えば、非民主的で政権が不安定なサウディに代わってイラクを 中東における米国の第二国防省とするということだ。 それを裏付けるかのように米国はイラク攻撃の直後からバクダッドに世界最大 の米国大使館を建設し、そこに外交官だけでなく多くの行政官を送り込もうと しているという報道があった。日本がそうであったように戦時が終わっても 米国は駐留米軍を常駐させてイラクを占領し続けるつもりなのである。 アフガンの場合は違う。腐敗にまみれたカルザイ政権などを支持するつもり はない。関心は反米イスラム抵抗組織を壊滅させる事だ。 アフガン復興やアフガンの国づくりは日本を先頭に国際社会をその気にさせて、 まかせておけばいい。 これらに比べイランの場合はより深刻だ。核保有だけはなんとしてでも阻止し なければならない。イスラエルの安全保障にとってイランの核兵器保有は悪夢だ。 なんとしてでも阻止する。 しかし米国がイランに直接介入することはもはや出来ない。今のイランは強固 な反米国家だ。 イランを分断してイラン人による政権交代を仕掛けるのだ。イランを混乱させ るための経済制裁なのだ。 そしてそれが上手く行かなければ軍事力を行使する。上手く行かなくても、 その後が混乱しようとも武力行使で阻止する。対イラン「決断」へ備えよ・・・」 リチャード・ハース氏はこう言っているのである。 これが米国だ。善良な日本政府や国民にはおよそ考えつかない周到な戦略と 軍事優先の米国だ。 そんな米国との軍事同盟関係を最重要視する日本が米国と対等になれるはずは ない。対等になろうとする必要はない。 これからの日本がとるべき政策は、そのような危険な米国から自主、自立して 平和外交の日本を取り戻す事なのである。 日本国民は一日もはやくこの事に気づかなければならない。 了
天木直人のメールマガジン ― 反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説
天木直人(元外交官・作家)