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天木直人のメールマガジン ― 反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説

天木直人(元外交官・作家)

天木直人

対イラン追加制裁を閣議決定した政府とそれを甘受する日本企業
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□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■  天木直人のメールマガジン 2010年9月6日発行 第81号 ■        ===============================================================         対イラン追加制裁を閣議決定した政府とそれを甘受する日本企業                                     ================================================================  民主党代表選挙に国民の目が奪われていた9月3日に一つの大きな政治決定 が行なわれていた。しかしそれに対する報道は小さかった。  それは我が国が欧米に追随する形でイランへの追加制裁措置を閣議決定した ことだ。  周知のとおりイランへの経済制裁は交渉を繰り返して6月9日に成立した 国際的合意としての国連安保理決議がある。  これは周到に議論された末の国際合意である。  各国はそれぞれイランとの関係において政治的・経済的つながりの度合いが 異なり、それ故にそれ以上の追加制裁をするか、しないかは各国の自主的な 判断に委ねられるということだ。  それが国連安保理決議なのである。  なぜ日本はイランに対する追加制裁を行なわねばならなかったのか。  これに対する説得ある理由は聞かれない。語られない。  日本の場合はイラン・イラク戦争で中立を貫き、双方とパイプを持つ唯一の 主要国として、その中東外交を当時の安倍晋太郎外相の「創造的外交」として 売り物にしてきたほどだ。  実際のところ在イラン大使のポストは重要ポストとされ、外務省幹部が歴任 してきた。  石油をはじめとして我が国経済とイランの結びつきは大きいものがあった。  ところがイランに対する米国の強硬姿勢は「テロとの闘い」が始まって以来 とみに強まり、今ではイランは核武装国家を目指すテロ支援国家として米国の 最大の敵国となった。  対米従属に傾斜した日本政府は米国の圧力に屈し、これまでのイラン政策を 変更して強硬姿勢に転じ、数々のイラン権益を手放してきた。  今回の対イラン追加経済措置はその行き着く先である。  なぜ日本企業は黙っているのか。なぜ経済記者は誰一人として追加制裁の 不合理さを指摘しないのか。  そう思っていたら、9月6日の日経「経営の視点」が見事に答えてくれた。  今日の新聞記事で私が最も注目したのはこの記事である。  我が国の対イラン経済政策についてここまで明確に日本企業に問いかける 記事は、私の知る限りではこれがはじめてである。  編集委員太田泰彦氏の手になるその記事の次の書き出しが素晴らしい。  「自分たちの手と足で調べつくし、とことん考えて、その上でトップが下した 決断なら納得もいく。だが判断力を欠いたまま、他者から促されるまま方針が 決まれば、疑問や後悔が残る。組織の士気も落ちる。対イラン制裁問題は、日本 企業の経営者に、その外交感覚を厳しく問いかけているのではないか・・・」  そして太田編集委員は次のように問題提起をするのである。  「・・・国内の金融業と産業界に大きな影響を与える追加制裁を米国に追従 する形で行なう事は正しいのか。  米国の追加制裁の動きは急に降ってわいた話ではない。米国の対イラン強硬 姿勢は今年の始めから活発化していた。米国でイラン制裁強化法案が成立した のは7月1日だ。しかし日本企業が敏感に反応した形跡はない。  トヨタは米議員が議会で『トヨタはイラン市場で首位になる目標を掲げて いた』と発言したとたん思考停止になり、いちはやく対イラン輸出を自粛した。  コーエン財務次官補が7月はじめに来日して、『日本企業が自ら判断すれば よいが、イランと商売をして評判を落とすリスクを真剣に考えるべきだ』と 露骨に圧力をかけた。これは異常だ。  イランとの金融取引を自粛するように圧力をかける米国に対し、邦銀の次の 対応は判断放棄である。 『国と国との問題であり、コメントする立場にない』、 『民間としては判断しづらい』・・・」  こう書いた後、太田編集委員は次の言葉でその記事を締めくくっている。  「・・・同じ結論でも『選び取る』のと『選ばされる』のでは意味が違う。 日本企業は自らの外交感覚に基づき、納得がいく判断を下せるだろうか」  太田編集委員の記事を読んで私はイラク戦争に賛成したあの時の日本政府の 状況を想起した。  あの時、考え抜いてイラク戦争に反対した政府関係者は一人もいなかった。  そして今回のイラン追加制裁についても、太田編集委員の問いかけを裏切る ようにイラン追加制裁に反対する経営者は出てこないだろう。  ないものねだりとわかっているにもかかわらず、それでも正論を言ってみる。 そうする事によって対米従属から向けきれない現状にささやかに抵抗する。  太田泰彦編集委員の勇気ある記事を読みながら、私はそう感じた。  そう感じてしまう私は、日本の政治に裏切られ続けたあまり、悲観的になって しまったのだろうかと思ったりする。                                  了                        

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