□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン 2010年8月24日発行 第65号 ■ =============================================================== アスベスト問題の次は調査捕鯨問題だ ================================================================ アスベスト問題でついに仙谷官房長官が重い腰をあげたようだ。今朝 (8月24日)の東京新聞が報じている。 次は調査捕鯨問題だ。 8月23日の東京新聞「こちら特報部」が、忘れかけていた調査捕鯨の 国家的欺瞞を国民の前に明らかにしてくれた。 2008年5月、環境保護団体「グリーンピース・ジャパン」が、調査捕鯨で 捕獲した鯨肉が横流しされていた事実を告発したことがあった。 ところがその証拠品を不法取得した「グリーンピース・ジャパン」の職員が 逆に窃盗罪などに問われ、横流し疑惑がやり過ごされた。 それから2年余り経って、その職員の窃盗罪裁判の判決が9月6日に青森地裁 で言い渡されるという。 それを前にして、あらためてあの事件は何だったのかを検証するすぐれた調査 報道である。 その記事は、調査捕鯨船の元船員に対する取材や、裁判のおける関係者の証言 などを紹介した上で、やはり横流しはあった、 証拠品を不法な手段で手に入れ た「犯罪」ばかりが報道され、その裏で横領疑惑が置き去りにされたことは問題 だ、と糾弾している。 あたかも沖縄日米密約問題をスクープした毎日新聞の西山太吉記者の事件を 思い起こさせる。 外務省女性職員と「情を通じて」極秘公電を入手した「犯罪」ばかりが強調 され、肝心の密約問題について国民の関心をそらした、あの事件である。 しかし、私が「こちら特報部」の記事で注目したのは、横流しの紛れも無い 事実が確認されたからだけではない。 もちろん、最上等の鯨肉部分だけを摘出し、それを仲間内で山分けしたり、 転売して小遣いをかせいだり、政治家や官僚や組織幹部に「上納」したり、と いうことが事実なら噴飯物だ。横領だ。 しかし東京新聞のその記事で私が最も驚いたのは、調査捕鯨という国策その ものが国家的詐欺まがいの不法行為の疑いがあるということである。 すなわち食肉としての鯨肉は余っているという。 商業的には成り立たない 捕鯨業をなぜ国が固執するのか。この矛盾を見事に喝破したのだ。 国際捕鯨委員会(IWC)が商業捕鯨のモラトリアム(一時停止)を採択した 80年代後半以来、日本政府は調査捕鯨に切り替えて捕鯨を続けてきた。 その大義名文は商業捕鯨再開のために鯨の生態を調査することであった。 しかしその実態は調査を逸脱した大量の捕鯨の繰り返しだ。 この国際法違反は外務省も知っていたが縦割り行政の弊害で、捕鯨は水産庁 の独断場であったため黙認せざるをえなかった。 ところが東京新聞の「こちら特報部」が報じるところによれば、そもそも商業 捕鯨はもはや商業的に成り立たないのに商業捕鯨にこだわり続けたという。捕獲 した鯨肉のほとんどの部分を海に廃棄してまで捕鯨を続けたというのだ。 なぜか。それは捕鯨業者と水産庁の天下り団体による、補助金、研究委託費、 助成金などの国家予算を獲得するためだという。 捕鯨と言えば、「カンガルーを殺してなぜ鯨を殺してはいけないのか」、とか 「日本の伝統産業や食文化を守らなければならない」とかの言説が人口に膾炙し、 世論は国際政治の中で頑張っている水産庁に味方し勝ちである。 おまけに欧米の反捕鯨団体の悪質な妨害工作もあり日本は断固として戦わ なければならないとなる。 まさしくそれが水産庁の目論見であったということだ。 日本の捕鯨業を守るという大義名分で国家予算を獲得する、天下り先を守る、 その手段としての調査捕鯨だというのである。 それが本当ならとんでもない事だ。 東京新聞は例によって気の利いたコメントでその記事を締めくくっている。 「蓮舫さん、(調査捕鯨に対する)補助金を一度事業仕分けしたらいかが」、と。 深刻な記事を書いているにもかかわらずユーモアの精神を忘れない東京新聞。 この余裕がまたたまらない。 了
天木直人のメールマガジン ― 反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説
天木直人(元外交官・作家)