… … …(記事全文2,002文字)いま日本では、メディア空間と国際情勢の両方で、怒りを基点とした現象が増えている。SNSでの炎上、スケープゴート化、集団同調による攻撃。一見バラバラの出来事に見えるが、よく見ると共通点がある。それは、人々の怒りが“特定の方向”へ流れやすいということだ。
怒りは常に「反撃されにくい相手」に向かう。これは心理学的に確立された現象で、代償的攻撃(Displaced Aggression)と呼ばれる。自分を苦しめる構造そのものには手が届かないため、人は弱そうに見える対象を叩くことでストレスを発散させようとする。
社会的な地位や発言力とは関係がない。誰かが「弱そうに見える」と判断されれば、攻撃の矢は自然とそちらへ向かう。SNS時代、こうした力学はより加速している。
興味深いのは、攻撃する側が“標的の強さ”を正確に測っているという点だ。相手が記録を残し、戦略的に動き、法的な反撃を行うと知った瞬間、暴走は急速に収束する。つまり、攻撃は最初から「反撃が弱そう」という見積もりの上で成り立っている。
これは特定の誰かに限らず、公共性をもつ仕事をする人に共通して起きる現象だ。政策提言者、ジャーナリスト、社会活動家、研究者——“声を上げる側”には、常に代償的攻撃のリスクがつきまとう。とりわけ女性であることは、残念ながら標的にされる確率を上げる要因になる。
これらの攻撃は、攻撃された本人の問題ではない。構造が生み出す必然である。
組織が疲弊し、内部で不満が蓄積し、指揮系統が揺らぎはじめると、攻撃性は外へ向かう。叩きやすい相手へ、噴出口を求めて流れ出す。これは軍事組織だけでなく、警察、企業、官庁、政治の世界でも起きうる。
そしてSNSは、この“怒りの向け先”を瞬時に共有し、群衆心理を加速させる装置として働く。怒りの炎は、合理性よりも速度を好む。だからこそ、一度火がつけば、一晩で何千倍・何万倍に膨れ上がる。
マサチューセッツ工科大学にその研究レポートがある。


