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鳥集徹(ジャーナリスト)

鳥集徹

有名人はがん検診の【啓発広告】に関わるな ~デーモン閣下!「早期発見」は「過剰診断」につながります~

2024年6月26日、聖飢魔Ⅱのデーモン閣下(10万61歳)が5月下旬に「早期がん」の手術を受けて、すでに退院したことを公式ホームページで公表した。なお、どこのがんであったかについては、「今は内緒」なのだそうだ。まずは体力を回復して、早く現場復帰されることを心からお祈りしたい。

 

公式コメントによると、デーモン閣下はかかりつけ医に勧められて、2月下旬に内視鏡検査を受けた。その結果、本来の検査目的とは違う部位に腫瘍が見つかったという。そして「なるべく早く専門医による治療を受けた方が良い」というアドバイスに従い、仕事をほとんどキャンセルして、4月から5月にかけて検査入院と手術を行った。

 

ご本人が治療を受けて安心し、満足しているのなら、その点についてとやかく言うつもりはない。ただ、デーモン閣下は誰もが知る有名人だ(いや、有名な悪魔?)。その発言や行動は社会に大きな影響力がある。その点で、わたしはデーモン閣下の下記のコメントには、問題があったと思っている。

 

「これを読んで心配に思ってくれている諸君、ご苦労!だが案ずるな。心配している時間があったら『がん検診に行くべし!』。…←説得力が増し増しだな。

 早期に発見し治療すればこんなにも短期間で現場復帰ができる、ということを諸君に見せつけるために、寒い季節にならないうちには元気な姿で現れ、また力強く歌い、憎まれ口をたたきに行くことを楽しみにしている」

 

そして、このコメントを受けて、デーモン閣下のがん治療を報じる各メディアのニュースも、軒並みがん検診や早期発見・早期治療の重要性を伝える内容となっていた。

 

デーモン閣下自身、厚生労働省「上手な医療のかかり方大使」を5年、広島県「がん検診啓発特使」を12年間務め、「かかりつけ医を持つことの必要性」や「がん検診を定期的に受けて早期に発見すれば治る可能性が高い」ことを訴えてきた。悪魔でありながら善行をなそうとは、なんともはやと思うのだが──いずれにせよ上記のようなコメントを出すのは、経歴からして不思議ではない。

 

しかし、デーモン閣下にもぜひ知ってほしいことがある。それは「早期発見・早期治療がすべての人にメリットをもたらすとは限らない」ということだ。少なくともがんに関して言えば、早期発見・早期治療のメリットは多くの人が考えるよりもかなり小さく、かえって害をなしてしまうことも多いのだ。デーモン閣下、ご存じだっただろうか。

 

早期発見・早期治療を頭から良いものだと信じ込んでしまう元凶が、すべてのがん(腫瘍)が、「放置していると命取りになる」という誤解だ。がんは単純化すると、進行速度によって「速い」「ゆっくり」「とてもゆっくり」「進行しない」の4つに分類できる。これは、米国ダートマス大学教授(当時、現ブリガム&ウイメンズ・ホスピタルなどに所属)のH・ギルバート・ウェルチ医師らの著作『過剰診断:健康診断があなたを病気にする』(筑摩書房)という有名な本に書いてある。過剰医療や医療依存の問題を考えるうえで重要な本の一つなので、関心のある人はぜひ読んでほしい。

 

本題に戻ると、「速いがん」は成長があまりにも速いので、がん検診で見つかったときには進行・転移していることが多く、根治的治療は難しいことが多い。一方、「とてもゆっくり」または「進行しない」がんは、症状が出る前に他の原因で本人が亡くなってしまうので、もしがん検診で発見すると不必要な治療、すなわち「過剰治療」を受けることになる。

 

がん検診で見つけて意味があるのは、放置していると命を脅かす危険性が高いが、局所に留まるなどして、根治できる可能性が高い「ゆっくり」がんだけなのだ。このようなゆっくりがんが多くを占める種類のがんであれば、理論的にがん検診のメリットは大きくなる。しかし、実は近年になって、がん検診で見つかる腫瘍には「とてもゆっくり」または「進行しない」がんが考えられている以上に多く、過剰診断が深刻であることがわかってきている。

 

それをわかりやすく示したものが、「ファクト・ボックス(Fact Box)」だ。これは、ある治療や検査を1000人が受けたとしたら、受けなかった場合と比べて何人が命拾いするのか、逆に何人が害を被るのかといったデータを、「実数」で分かりやすく示したものだ。この数字は、信頼性の高い臨床試験のデータに基づいている。なお、このファクト・ボックスでは、「%」や「比」では使われない。なぜなら、直感的に理解しにくいうえに、母数が示されないと効果が大きく見えるなど、誤解が生じるからだ。ちなみに製薬会社は、あえて「%」や「比」を使って、効果を大きく見せている。

 

このファクト・ボックスを、ドイツのポツダム大学健康科学部に設置されている「ハーディング・センター・フォー・リスク・リテラシー(Harding Center For Lisk Literacy)という研究所がインターネットに公開している。英語だが、さまざまな検査や治療のファクト・ボックスが掲載されているので、興味がある人は検索して元のサイトを見てほしい。いくつかのがん検診のファクト・ボックスが掲載されているが、まずは乳がん検診から見ていこう。


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