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鳥集徹(ジャーナリスト)

鳥集徹

コロナワクチンと「慢性疲労症候群」 ~ワクチン問題研究会は何を伝えたかったのか~

「とくに30代、40代が非常に多くて、この人たちほんと働き盛りでした。かつ子育ての真っ盛りの世代でもありましたし、なかには10代の子どもたちもいて、結局、生活が一変してるんですね。これ深刻な問題だと思うんです」

 

2024年3月28日(木)、厚生労働省の会見室で、一般社団法人ワクチン問題研究会業務執行理事の児玉慎一郎医師(医療法人それいゆ会理事長)は言葉を詰まらせながらこう語った。この日、同会による「新型コロナワクチン接種後症候群における筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)の症状改善に必要な療養指導に関する記者会見」が開かれた。昨年9月7日の設立から、3回目の記者会見となる。

 

この会見で、同会の医師たちは何を伝えたかったのだろうか。私が知る限り、大手メディアでこれを報じたのは、いまのところ河北新報の武田俊郎記者だけだ(河北新報「コロナワクチン後の体調不良 ビタミンDで改善傾向 ワクチン問題研究会」2024年3月29日)。ビタミンDを意識して摂取することで、コロナワクチン接種後あるいはコロナ感染後の体調不良が改善する人がいるかもしれないのに、同会の研究成果がほとんど報道されないのは、本当に悔しい。

 

私も、同会のホームページにアップされている会見の動画を、最初から最後までじっくりと視聴させてもらった。私なりに印象的だった部分をまとめてみようと思う。なお余談だが、この会見の時間、私は以前から決まっていた別件の取材で名古屋にいた。なので、残念なことに会見には出られなかった。会見終了後、弁当とハイボールで一息つきながら下りの新幹線で新大阪へ向かう児玉医師と、何も飲み食いしないまま上りの新幹線で品川へ向かう私は、豊橋あたりですれ違ったものと思われる。

 

本題に戻ろう。今回の会見で重要な点の一つは、ワクチン接種後症候群(PVS/いわゆるワクチン後遺症)の患者さんの症状を調べたところ、「筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS」の診断基準に当てはまる人がかなり多かったという事実だ。児玉医師のもとに通院しているPVSの患者80人のうち、35%にあたる25人がME/CFSと診断できたという。

 

慢性疲労症候群と呼ぶと、たんなる「慢性の疲労」と誤解されることから、最近では世界的に「筋痛性脳脊髄炎」という病名で呼ばれるようになったという。そのため「ME/CFS」というややこしい名称が用いられているが、どんな病気なのか。会見の中で、同会業務執行理事の藤沢明徳医師(ほんべつ循環器内科クリニック院長/全国有志医師の会代表)が引用していた「MSDマニュアル プロフェッショナル版」には、つぎのように書かれている(なお、MSDマニュアルは、世界的な巨大製薬企業の一つであるMSD社が社会貢献事業として運営している医学事典で、現在、ウェブ上で公開されている。世界中の医師たちが教科書として参照する、スタンダードな医学情報源の一つだ)。

 

「慢性疲労症候群(CFS)は,生活を変える原因不明の疲労が6カ月以上にわたり持続する症候群であり,いくつかの随伴症状を伴う。管理としては,患者の障害の確認,具体的な症状の治療,一部の患者には認知行動療法,段階的運動プログラムなどがある。」

 

ただし、原因不明の疲労が6カ月以上続けば、自動的にME/CFSと診断されるわけではない。米国、カナダ、ニュージーランドの医師たちからなる研究グループが、「筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)臨床医のための手引書」を作成し、厳格な診断基準を設けている。その診断基準の骨格を以下引用する(日本語訳:AMED【国立研究開発法人日本医療研究開発機構】「筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群に対する診療・研究ネットワークの構築」研究班/研究代表者:国立精神・神経医療研究センター神経研究所免疫研究部 山村隆)。

 

「ME/CFSの診断を行うために、患者は以下の項目を満たす必要がある。

・病的な疲労、労作後の消耗、睡眠障害、痛み、2つ以上の認知に関する症状

・以下のうちいずれか1つの症状に該当していること:

 自律神経系の症状、神経内分泌系の症状、免疫系の症状

・疲労や他の症状が次の期間、持続ないし再発していること(成人で6ヵ月以上、小児および青年で3ヵ月以上)ただし早期に暫定診断が可能な場合がある

・症状が他の疾患では説明できないこと」

 

ME/CFSに関して児玉医師が示したデータは、このような厳格な診断基準に基づいている。ちなみにPVSも、ワクチン問題研究会によって設けられた暫定的な定義に基づいて診断されている。決して医師の主観的によって「PVSだ」と診断されているわけではない。つまり、児玉医師が診療したPVSのうちの35%(80人中25人)が慢性疲労症候群だったという数字は科学的な定義に則っており、決していい加減な診断に基づいて示されたわけではないということだ。それから考えると、PVSに苦しむ人の中に、慢性疲労症候群的な症状で苦しむ人が、かなり多いであろうことが推測される。


このME/CFSに関して、ワクチン問題研究会がなぜビタミンDに着目することになったのか。それは、ME/CFSに関する論文を検索したところ、慢性疲労症候群の患者でビタミンDの血中濃度が低下しており、ビタミンDの補充が症状の改善に有効であることを示唆する研究がいくつもあったからだ。上記の「手引書」にも、「ME/CFS患者では、ビタミンD欠乏症がしばしば見つかることから、ビタミンDの補給が適量摂取のために必須となる場合がある」と書かれている。

 

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