… … …(記事全文4,539文字)久ぶりに真っ当な医療報道を見た。九州のRKB毎日放送が配信した、子宮頸がワクチン(正式にはHPV〈ヒトパピローマウイルス〉ワクチン)の健康被害をめぐる裁判の記事だ。YAHOO! JAPANニュースにも転載されていたので、まだ読んでいない人はぜひ目を通してほしい。
「子宮頸がんワクチンめぐる一斉提訴から8年目にして健康被害を訴える女性たちを法廷で“尋問”『血を吐くような思いを10年』『科学的な裏付けは存在しない』対立する主張」(2024年1月22日)
子宮頸がんワクチンの健康被害を訴える女性たちが国と製薬会社に損害賠償を求めた裁判は、2016年7月に全国4地裁(福岡・大阪・名古屋・東京)で一斉に提訴された。それからおよそ7年半。被害を受けた女性本人である原告への尋問が行われるのは、2024年1月22日の福岡地裁が初めてだった。RKBのニュースは、それを受けてのものだ。
この記事が優れているのは、原告と被告(製薬会社)双方の主張をきちんと報じていることだ。というか本来は、意見が分かれている問題については、双方の主張を公平に伝えるのが報道機関の役割だ。テレビ・ラジオなど電波が割り当てられる放送事業者に適用される放送法の第4条にも、その旨が明記されている。
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第四条 放送事業者は、国内放送及び内外放送(以下「国内放送等」という。)の放送番組の編集に当たつては、次の各号の定めるところによらなければならない。
一 公安及び善良な風俗を害しないこと。
二 政治的に公平であること。
三 報道は事実をまげないですること。
四 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。
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コロナワクチンをめぐるテレビ・ラジオの報道で、この放送法の主旨が守られていたと言えるだろうか。私は明らかに放送法違反であったと思う。それを考えるとRKBの記事は、優れているというより、ようやく当たり前のことが行われたと評すべきかもしれない。いずれにせよ、真っ当な報道がされたことは高く評価したい。
話を元に戻そう。記事によると福岡地裁に提訴した原告26人はいずれも20代の女性で、接種後に、日常生活に支障を来すほどの体の痛みやけいれん、睡眠障害、記憶力の低下などの症状があらわれたと訴えている。そして、原告の一人である梅本美有さん(25)が記者会見で語った内容も記載されている。
彼女は高校1年生の5月に3回目の接種を受けた後、痛みや皮疹、吐き気、頭痛等の症状に悩まされ続けてきた。記者会見で「毎日毎日痛くて、このまま死ぬんじゃないか。いっそ殺してくれと思いました」と壮絶な体験を語っている。ぜひ元の記事を読んでほしい。
一方、被告側である製薬会社側の主張要旨も、箇条書きでまとめられている。少し長いが引用させてもらう。
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▽日本では毎年1万人が子宮頸がんを発症し、3000人が死亡している。
▽世界中の保健機関が安全かつ有効であるとして推奨している。原告らは少数の医師らによる信頼性の乏しい症例報告や憶測に基づく研究に依拠している。原告らに関するほぼすべての症例について、認知行動療法のような適切な治療によって改善できたであろう心因的な要素があった。しかしHPVワクチンによるものと誤解させられたことで、不適切で侵襲性が高い治療を受け、回復が妨げられている。
▽ワクチンと原告らの症状との間の因果関係に関する科学的裏付けは存在しない。症状には他の原因があることが明らかである。
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これらの製薬会社の反論を読んで、みなさんはどう思っただろうか。「世界中の保健機関が安全かつ有効であるとして推奨している」「ワクチンと原告らの症状との間の因果関係に関する科学的裏付けは存在しない」という主張は、コロナワクチンの薬害を頑なに認めようとしない、ワクチン推進派が展開している論理と瓜二つだ。
もし子宮頸がんワクチンの裁判でワクチンと健康被害との因果関係が認められたら、その判例はコロナワクチンをめぐって裁判が起こされた場合、その判決にも影響を与えるだろう。そして、今後起こり得る他のワクチンの裁判でも、その判例が踏襲されることになる。それゆえ過失を認めたくない製薬会社側は、どんな理屈をこねてでも、健康被害との関連性を頑なに否定し続けるだろう。
X(ツイッター)では言えない本音
鳥集徹(ジャーナリスト)