… … …(記事全文6,132文字)1月9日、歌手の八代亜紀さんが昨年12月30日に亡くなっていたことを所属事務所が公表した。まだ73歳だった。若々しくて溌剌としたイメージしかなかったので、まさかお亡くなりになるとは夢にも思わなかった。ファンの方々の喪失感は大きいだろう。心からご冥福をお祈りしたい。
八代さんの「舟歌」が大ヒットしたのは1979年、私が中学生のときだった。当時はトラック野郎たちの女神のような存在で、まだまだ子どもだった私は大変失礼ながら、若いアイドルたちに比べて八代さんのどこがいいのか、まったくわからなかった。「お酒はぬるめの燗がいい 肴はあぶったイカでいい」という歌の意味も、まったく理解することができなかった。
だが、X(旧ツイッター)に追悼の意を込めて動画投稿するため、あらためて「舟歌」をギターで弾き語りしてみて、なんと心に沁みる歌なのかと再認識した。メロディーも音程の高低差が大きく、素人が歌いこなすには難しい。八代さんの、唯一無二のハスキーボイスと歌唱力に、ただただ感嘆するばかりだ。九州新幹線の新八代駅に掛かる、故郷熊本の球磨川を描いた風景画も拝見したことがあるが、八代さんは絵の腕前も素晴らしかった。その才能が失われたことを、心から惜しむ。
その八代さんの命を奪ったのが、国の指定難病である「抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎」から併発した「急速進行性間質性肺炎」だった。聞きなれない病名だが、自分の免疫が自分の身体の一部を「外敵」と間違えて攻撃してしまう「膠原病(こうげんびょう)」の一種で、しばしば致命的な間質性肺炎を合併する。そして、急速進行例では呼吸不全に陥り、死に至ると国の「難病情報センター」のサイトなどで解説されている(難病情報センター「皮膚筋炎/多発性筋炎」(指定難病05))。
この病名が報道されたことで、Xには八代さんの死とコロナワクチンを絡めた投稿が相次いだ。私も「八代さんの死がコロナワクチンのせいとは断言できません」と断りつつも、「リスクがあり得るのですから、これ以上接種はやめるべきです」と書いた。これについて、八代さんの接種歴など詳細が分からない段階で、コロナワクチンと絡めて言及するのは、ワクチン推奨側から「トンデモ」と見られてしまうだけでなく、故人の尊厳も損なう行為だとのご批判をいただいた。
様々な考え方があるので、ご批判は甘んじて受け、その違いは尊重したい。もちろん、八代さんの抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎がコロナワクチンによるものかどうか分からないのはその通りだ。八代さんがワクチンを打っていない可能性も十分にある。逆に、もし打っていたとしても、それが抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎の引き金になったのかどうかもわからない。どんなに調べても、医学的に原因を確定することは不可能だろう。
ただ、コロナワクチン接種後に抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎を発症した症例の報告が複数あるのは事実だ。「PubMed」で「anti-mda5 covid-19 vaccine(抗MDA5 新型コロナワクチン)」と検索すると、以下の論文がヒットした(コロナワクチン接種後の症例に限り引用。私が日本語タイトルに翻訳し、日付順に並べた)。なおPubMedは「米国国立医学図書館」が運営する医学文献データベースのことで、英語がある程度できれば誰でも世界中の医学論文を検索することができる。グーグルなどの検索エンジンで翻訳すれば、完全に正確とは言えないものの、日本語で読むことも可能だ。
X(ツイッター)では言えない本音
鳥集徹(ジャーナリスト)