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吉富有治の魔境探訪 - 政治という摩訶不思議を大阪から眺める

吉富有治(ジャーナリスト)

吉富有治

【無料再掲】 駐輪場20台の大阪公立大学新キャンパス予定地 現実離れの計画に唖然
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 以下の記事は2021年11月15日に無料再配信したものを一部修正・加筆のうえ再々掲載したものである。なお、オリジナルの有料記事は2021年9月22日に配信したが、当時と現在とでは状況が若干異なることをご了承いただきたい。


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 来年の2022年4月、大阪に新しい大学が誕生する。校名は「大阪公立大学」(Osaka Metropolitan University)という。大阪府立大学(堺市中区、府大)と大阪市立大学(大阪市住吉区、市大)が統合してできる新大学である。言うまでもなく前者は大阪府が所有する大学で、後者は大阪市だ。大阪府と大阪市が抱える二重行政の解消、そして府市の協調の象徴として当時の橋下徹大阪府知事が提唱し、そして統合が実現した。


 大阪公立大学は約1万6000人の学生を抱える。国公立大としては阪大、東大に次ぐ3位の規模で、公立大学では最大の学生数となる。キャンパスは従来の府大が持つ中百舌鳥キャンパスや市大の杉本キャンパスなどの敷地に加え、新たに26000㎡(約8000坪)の敷地を持つ森ノ宮キャンパス(大阪市城東区)が2025年9月にオープンする予定である。ここには1、2回生が通うことになり、基幹教育や文学、リハビリ学などの学部が置かれる。と同時に、新大学の「顔」「象徴」としての意味も持つ。


https://www.omu.ac.jp/morinomiya/


 府大と市大が統合する議案は2018年に府・市の両議会で可決・成立し、新大学が2022年4月に開講する議案は2020年に可決している。ただし、両大学の統合はすんなり進んだわけではない。特に当時の橋下知事と大阪維新の会が半ば強引に進めたこともあり、府市の両議会でも議論が起こり、それぞれの反発の声が広がった。


 たとえば、府大と市大の21名の名誉教授らは2013年10月、学長選考のあり方や財政的保障などについて憂慮するとの声明を出している。また、両大学の職員の間でも、教職員や学生、OBの意見も聞かず行政主導で強引に統合が行われたなどと批判している。


 それでも新大学は維新政治の思惑通り、来年には開講する。新しい大学が大阪の「顔」となる以上は、学問の研究拠点としてその実力を発揮してもらいたい。学生たちには充実したキャンパスライフが送れるよう、施設の充実を図ってもらいたい。それが大阪府民、大阪市民としての素朴な願いである。


 ところが、である。ここに来て「施設の充実」とは程遠い実態が浮かび上がった。2025年9月にオープンする森ノ宮キャンパスの敷地内に設置予定の駐輪場が、最大でも20台の自転車しか駐輪できないことが判明したのだ。予定では同キャンパスに教職員と学生、合わせて約7000人が通うことになる。遠方からなら電車やバスで通勤・通学する人が大半だろうが、中には下宿先や近隣市街、あるいは市内の自宅から自転車に乗って通う予定の者だって多いだろう。それが最大でも20台の駐輪場とは、いったいどうしたわけなのか。新大学の「顔」「象徴」であるはずの森ノ宮キャンパスには約1000億円もの建設費が投入される。巨額の公費を使いながら学生の通学実態を無視した、きわめてアンバランスな設計をしているとしか思えない。


 このことに最初に気づいたのは大阪市会の山中智子市議(城東区選出、共産党)だった。今年7月15日に開かれた森ノ宮キャンパス予定地の近隣住民向けの説明会で、主催者側(大阪市経済戦略局と大学法人、城東区役所)が「駐輪場は最大20台」と説明したのだという。その話を説明会に参加した住民から聞いた山中が不審に思い、同キャンパスの整備計画等を担う大阪市都市計画局に問い合わせたところ、市も「20台」という数字については事実と認めたのだ。


 山中は9月10日に開かれた市都市計画審議会でこの問題を指摘した。では、市はどう答えたのか。以下、「Q」は山中、「A」は市都市計画局である。


Q 自転車通勤・通学は禁止するということだが、コロナ禍で公共交通機関を避けて自転車利用される方が多くなっている中、自転車利用を禁止するということがわからない。


A 新大学の都心キャンパスの整備計画の中で、大学法人が駐輪場を検討するにあたり、約7000人の多数の学生・教職員が通学・通勤することになるということ、最寄りの森ノ宮駅から徒歩圏であること、通学・通勤時等における周辺道路における歩行者の安全性を確保すること、また、他の都心キャンパスの事例等も踏まえ、大学法人として学生・教職員用としての駐輪場は設けないこととし、開学後も学生・教職員に対して、自転車による通学・通勤は原則禁止することされており、市民や企業等を含め、公共交通機関を利用した来訪をお願いする方針となっている。現在の計画では、約20台の駐輪場については、不測のやむを得ない事態に対応するものとして整備される。


A 現在の検討中の計画では、駐輪場の台数が20台と聞いているが、本市としては、今後の実設計の段階において、地域の方々に開放する学内施設の具体的な利用や運営方法等を踏まえ、適正な規模の駐輪場が整備されるよう、大学法人に対して指導していく。


 以上のように大阪市も様々な理由を挙げて駐輪場が「20台」という数字については認めている。だが、これは現実的にはおかしな話である。たとえ大学当局が自転車通学を禁止しても、必ず通学してくる学生は現れる。最寄り駅にはJR森ノ宮駅と地下鉄・森ノ宮駅があるが、全員が電車で通ってくるわけではない。自宅や下宿は駅から遠いが、かといって大学までは数キロ程度の距離。このような学生にとって自転車こそが最適な通学手段である。また、親からの仕送りやバイト代で生活する学生は100円、200円の交通費すら惜しんで生活しているのだ。そのような学生には自転車は欠かせない無料の交通手段であることを、同キャンパスの設計段階で担当者は気づかなかったのだろうか。


 この調子では市と大学が放置自転車の根絶により地域住民に迷惑をかけないつもりでも、かえってキャンパス周辺には放置自転車があふれかえり、逆に近隣に迷惑をかける可能性が高くなってくる。同審議会での質問では山中はこの点も指摘している。


 ちなみに他の大学はどうなのか。さすがに20台はないだろうが、せいぜい100台程度なのだろうか。そこで大阪公立大森ノ宮キャンパスに通う約7000人と同規模の大学に聞いてみた。なお、答えてくれたのはいずれも大学広報課である。


 たとえば学生数が約5700人の大阪学院大学(吹田市)の場合、駐輪場には約700台が停められる。さらに臨時の駐輪場を加えると1400~1500台の駐輪が可能だという。余談だが、質問に答えてくれた担当者に「大阪公立大学の駐輪場は最大20台」と伝えると、「えっ?」と絶句していた。当然だろう。これが大学当局としてごく普通の反応である。


 大阪経済大学(大阪市東淀川区)は約7200人の学生が通うことから、公立大学森ノ宮キャンパスとほぼ同程度の規模である。ちなみに大阪経済大学では「交通事故多発により、自転車での通学も自粛するよう指導しています」(同大HPより)とのことだが、それでも駐輪場が用意され1396台の自転車が停められるという。自転車通勤・通学が原則禁止の公立大学とは大きな違いである。


 ところで、森ノ宮キャンパスの最寄り駅はJR森ノ宮駅か地下鉄・森ノ宮駅。近くにバス停はない。そのため、このキャンパスに通う1、2回生の学生は公共交通機関ならJRか地下鉄を使うことになる。そこで9月16日午前、日差しは強いが木陰に入ると爽やかな風が吹く秋空の下、私もJR森ノ宮駅からキャンパス予定地まで歩いてみた。距離にして約1km。私の足で徒歩15分の距離である。



 写真の通り、キャンパス予定地の周囲にはフェンスが張られ、中の様子を詳しく見ることはできなかった。ただフェンスの隙間からのぞくと、雑草が生い茂る土地が広がっており、まだまだ建設する段階には至っていない。


 この土地はもともと、ごみ焼却場である大阪市森ノ宮工場の老朽化に伴い、その建て替え予定地として用意された土地だった。だが、その後に大阪市の方針変更によって同工場の建て替えは中止。建て替え用地を公立大森ノ宮キャンパスとして利用することになった。ただ、市議会関係者が言うには、それまで府大と市大の統合は1法人2大学の基本方針のもと、キャンパスも既存の土地を有効活用するとされていた。ところが、急きょ現れたのが森ノ宮キャンパス。しかも約1000億円もの巨費を投じることから、「何か裏があるのか」と訝しむ議会関係者やマスコミ関係者は少なくない。

 

 さて、同キャンパス予定地まで歩いてみて気がついたことがあった。JRと地下鉄の森ノ宮駅周辺(中央区)には不法駐輪する自転車が極端に少ないのだ。駅周辺には大阪市の有料駐輪場が完備されているものの、市内でも不法駐輪が目立ないのは珍しい。私が住むJR天満駅(北区)の周辺などは不法駐輪だらけで(写真)、ときに歩くことも困難になる。同じ大阪市内でも区によって不法駐輪の対応が異なるのかと、感心するやら呆れるやらの発見であった。



 キャンパス予定地に近づくと、目に飛び込んでくるのがUR賃貸住宅「UR森ノ宮」のビル群。言うまでもなく、独立行政法人・都市再生機構(UR都市機構)が管理する賃貸住宅である。ちょうどキャンパス予定地の南側がURのビル群に面している。ここの住宅周辺にも不法駐輪はなく、歩道は美しく整備されていた。



 ここの住人の何人かに話を聞いてみたが、多くの人はフェンスに囲まれた空き地に公立大学が建設されることを知っていた。ただ、駐輪場が20台限定という事実を知る人は皆無で、中には「うちの団地が大学生の自転車であふれかえるかもしれない」と心配する人もいた。確かにUR森ノ宮の中には駐輪場が完備されている。ここを外部の者が利用してもわからない。森ノ宮キャンパスは自転車通勤・通学が禁止であり、ならばと、URの敷地内にある駐輪場をこっそり利用する教職員や学生が現れないとも限らない。今のうちに対策を練っておかないと、周辺住民と大学との間で無用なトラブルを起こすだけだろう。せっかく不法駐輪が少ない森ノ宮駅周辺なのに、森ノ宮キャンパスができたおかげで路上駐輪する自転車が増えてしまったのでは地元が迷惑する。


 ただ幸いなことに、駐輪場20台が予定通り実現するとは限らない。市都市計画局も「適正な規模の駐輪場が整備されるよう、大学法人に対して指導してまいりたい」と回答している。市経済戦略局も私の取材に対して「今後の開発の状況を見ながら大学当局と相談して(修正等を)考えたい」と答えている。


 大学には大学の自治があり、本来、学生に対する方針は外部がとやかく言うことではないのだろう。ただ、それでも大阪市には「ヘンだ」と首をかしげる職員はいるようで、それら良識的な人たちが大学当局に働きかければ駐輪場が拡充される可能性は大いにある。今は「20台? アホか」で笑っていても、いざ新キャンパスがオープンすれば学生たちや地元の人たちは笑うどころか真っ青になるかもしれない。


 せっかく新しい大阪の「顔」ができるのだ。無用なトラブルが起こらないよう、大阪市と大学は善処してほしいものである。(文中・敬称略)


(吉富注・当初は「20台」という制限があった駐輪場はその後、計画が変更されたようである。2025年2月現在、大阪公立大学では駐輪できる自転車の数を増やしたとの情報があった。その数は一般用が62台、学生用が248台、計310台の予定という。ただし、定期利用で全て有料(金額未定)とのことである。)


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