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吉富有治の魔境探訪 - 政治という摩訶不思議を大阪から眺める

吉富有治(ジャーナリスト)

吉富有治

【臨時無料再配信号(2024年1月3日配信)】 維新とガチンコ勝負の公明党 提案したい次期衆院選での"対維新戦術"
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 以下のメルマガは今年1月3日に配信したものである。大阪市廃止・特別区設置構想(大阪維新が言うところの「大阪都構想」)の根拠法について少し動きが見えたので、ここにあらためて当時のメルマガを無料で再配信したい。なお、今回の記事はオリジナルで配信した前半部分を少し割愛し、時制や肩書も当時のままであることをご了承願いたい。


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 政治資金パーティー問題で顔面蒼白の自民党だが、同じ与党の公明党も大いに慌てている。これまで無風地帯だった衆院大阪の4小選挙区で日本維新の候補が立ちはだかるからだ。公明党の支持母体である創価学会も危機感を抱いており、故・池田大作名誉会長が命名した「常勝関西」にも傷がつくと焦っている。


 ここで「常勝関西」の由来を紹介しておこう。学会員には常識でも、その名前の詳しい由来を知る一般人は少ないからだ。


 公明党の前身は「公明政治連盟」といい、創価学会第2代会長の戸田城聖の時代に誕生した。当時は国政にあまり重点を置かず、都議会を中心に地方議会へ党勢を伸ばしていった。現在の都議会での公明党も、最大会派の自民党と都民ファーストに続き、都議23人を抱える第2会派として都政に大きな影響力を持っている。


 同党が都議会に力を入れているのは公明政治連盟からの伝統もあるが、新宿区信濃町に本部がある創価学会は、かつて東京都から法人格の許可を得た経緯があるからだ(現在は文科大臣が認可)。東京都は日本の首都であり、政府のお膝元である。公明党は都政に影響力を持ち続けることで創価学会を守るという、いわば組織防衛の役割を担っているのだ。


 その創価学会が初めて国会議員を誕生させたのは公明政治連盟が生まれる前の1956年。参院選大阪で創価学会が推薦する候補が初当選した。このとき大阪で選挙の指揮を取ったのが若き池田大作だった。ところが翌57年の参院選大阪の補欠選で学会員らが有権者を買収したとして、公職選挙法違反の容疑で多数の逮捕者を出した。当時、学会員とともに池田も大阪府警によって逮捕されている。後に池田は無罪判決を受けたが、創価学会ではこれを「大阪事件」と呼んでいる。


 大阪事件は、学会員の国家権力への怒りを植えつけると同時に、逆境があっても大阪での選挙は絶対に勝つという創価学会のポリシーへと昇華した。そのポリシーを言葉として示したのが「常勝関西」である。


 さて、創価学会にとって大阪事件当時に敵対した相手が大阪府警や国家権力なら、現在の敵は日本維新である。衆院大阪の4小選挙区に立ちはだかる日本維新は、創価学会と公明党にとって最大の強敵となった。次の衆院選で日本維新に負けると、「常勝関西」の伝統が一気に崩れ落ちることになる。それだけは是が非でも避けたい公明党は、あの手この手で日本維新を揺さぶる作戦に出ている。


 その1つが、大阪維新が自分たちの「成果」として自慢してきた2025年大阪・関西万博を揺さぶることである。当初は1250億円だった会場建設費が、いまでは2350億円と約2倍に膨れ上がっていることから、公明党は大阪維新と日本維新の計画の甘さが原因だとして、これを他の野党とともに追及している。


 国会では昨年11月21日に、公明党の伊佐進一衆院議員が衆院予算委員会で、350億円もの建設費が必要な「リング(大屋根)」をやり玉に挙げ、「計画がずさんだ」と批判した。このリングについてはすでに立憲民主党も「世界一高い日傘」などと批判しており、与党である公明党が野党と足並みをそろえて万博を批判する異例な展開となっている。


 野党と歩調を合わせて万博批判に転じるという異例な展開だけではなく、そもそも国の事業である万博を与党である公明党が批判することも本来ならば筋が通らない。公明党にすれば次の衆院選でそれだけ危機感がある証拠でもある。もはやなりふりを構わず維新批判に転じる以外に方法がないのだ。


https://www.yomiuri.co.jp/election/shugiin/20231128-OYT1T50277/


 そこで公明党に提案がある。次の衆院選で日本維新と真っ向勝負するのなら万博批判もいいが、より効果があるものにしたいのなら「大都市法」を潰してしまうことだ。大都市法は正式には「大都市地域における特別区の設置に関する法律」といい、大阪市廃止・特別区設置構想(いわゆる「大阪都構想」)の根拠法のことである。この法律の息の根を止めることが公明党にとっての「贖罪」となり、対維新の「爆弾」になるはずだ。


 ご承知のように、いわゆる都構想の是非を問う住民投票は過去2回も実施された。2015年5月17日と2020年11月1日の2回である。幸い、2回とも反対多数で都構想は否決されたが、3度目の住民投票が「絶対にない」とは言い切れない。大阪維新の議員の中には住民投票に消極的な者もいるが、3度目を狙う"主戦論者"は少なくない。


 2021年2月19日に行われた大阪市会財政総務委員会で、3度目の住民投票を実施しないことを求める市民からの陳情書を審議し、賛成多数で採択された。ところが賛成したのは自民党と公明党、共産党で、大阪維新は反対している。大阪維新も本気で3度目の住民投票をやらないつもりなら他党と足並みをそろえて「賛成」に回りそうだが、実際は「反対」である。タイミングを見計らって住民投票を実施するつもりなのだろう。


 大阪維新の代表である吉村洋文大阪府知事も3度目の住民投票を否定していない。そもそも吉村は2度目の住民投票が反対多数で終わったときに、「僕自身が挑戦することはもうない」と宣言している。このとき大阪市長だった松井一郎は敗北の責任をとって政界からの引退を表明した。


 ところが昨年4月の統一地方選で大阪維新が議席を大幅に増やしたことに気を良くしたのか、吉村は「都構想再挑戦を望む声に多く接した」と会見で語っている。その上で、3度目の住民投票を実施する場合は「何らかの民主的なプロセスが必要だ」と含みを持たせた。吉村は「やる」と断言こそしなかったものの、内心ではやる気満々だと思ったほうがいい。


 当面は2025年大阪・関西万博と2030年以降に開設予定のIR・カジノが控えているので、数年以内に住民投票を実施することはないだろう。だが万博が大失敗に終わったとか、あるいはIR・カジノが頓挫したといった理由で維新人気がガタ落ちすれば要注意である。かれらは起死回生を狙い、3度目の住民投票を仕掛けてくるかもしれない。当面の住民投票はなかったとしても将来はわからない。またまた大阪市民が真っ二つに分断されることはありえると考えたほうが賢明である。


 そこで公明党の出番なのだ。同党はみずからの「罪」を償う意味でも、国会で大都市法の廃止か停止に動くべきだと考える。


 1度目の住民投票でこそ中立のポジションでいた公明党は、2度目のそれでは手のひらを返して「賛成」へと方向転換した。同党大阪府本部の代表だった佐藤茂樹衆院議員は2017年10月に行われた自民党大阪3区の大会に来賓として登壇し、「公明党は都構想には絶対に反対」と明言した。ところが3年後に行われた住民投票では大阪維新の軍門に下り、性懲りもなく「都構想に賛成」と180度も方向転換している。公明党が「コウモリ政党」と揶揄されるのも無理はない。


 公明党が変節した原因は、大阪維新の意向を受けた菅義偉首相(当時)と創価学会の某副会長が暗躍し、公明党大阪に対して賛成するよう揺さぶったからである。さすがに多くの学会員は動揺し、公明党の豹変ぶりに落胆した。公明党が都構想に賛成しても多くの学会員が反対だったこともあり、住民投票では反対多数で終わったといえる。いわば反対派は良識のある学会員に救われたのだ。


 2度目の住民投票までは大阪維新と一心同体だった公明党は、衆院大阪の4小選挙区に日本維新から刺客を立てられることに反発し、維新攻撃を始めようとしている。維新に振り回されて気の毒だとは思うが、じつにご都合主義だと言わざるをえない。


 だが公明党がやるべきことは、まずは自己批判からだろう。なぜ2度目の住民投票を許し、都構想に賛成したのか。その点の反省と自己批判が求められる。あわせて贖罪も必要である。要するに罪ほろぼしである。そこで大都市法の廃止ないし停止に向けて動き出せばどうか。立派な罪ほろぼしになるだろう。


 仮に次の衆院選で公明党が大都市法の廃止・停止を公約に掲げた場合、それまで同党に反発していた一般の有権者からの共感も呼ぶと思われる。とくに都構想に反対していた有権者は維新にも反発しているが公明党にも同様の気持ちでいる。ここで大都市法の廃止・停止を公約に掲げれば、反維新と同時に反公明党の支持者を取り込むことも可能になるのではないか。


 公明党の牙城になっていた衆院大阪の4小選挙区は、これまで自民党と維新の候補が立たないこともあり、まったくの無風地帯だった。つまりこの選挙区で公明党候補に投票するのは大部分が学会員で、自民党や他党の支持者は棄権する人が少なくなかったのだ。そのような状況下において、次の衆院選で同選挙区から日本維新の対抗馬が出れば、公明党に投票するのが学会員だけなら同党候補の当選は厳しい。当選するためには自民党を含めて他党支持者を巻き込む必要がある。もし公明党が大都市法の廃止・停止を公約にすれば、少なくとも都構想に反対する有権者は公明党に票を入れるだろう。


 そもそも大都市法は旧民主党政権の時代である2012年、議員立法により制定・施行された法律である。同法は自民党と公明党、民主党やみんなの党、新党改革(共に当時)など超党派の国会議員らが集まり、のちに総理になった菅義偉衆院議員が座長になって取りまとめた。


 大都市法が制定された背景には大阪維新の躍進があった。実質的なデビューとなった2011年4月の統一地方選で、大阪維新はいきなり大阪府議会と大阪市議会で最大会派になるほどの議席を獲得した。この勢いに対して中央政界では、いずれ維新は国政に進出するのではないかという半ば恐怖のような感情があったという。そこで大阪維新が国政へ進出することを諦めてもらう代わりに、都構想の根拠法を制定する密約があったといわれている。大阪維新という新興勢力に対して、中央政界が大都市法を用意するほど気を使ったわけである。


 その大都市法だが、官僚がほぼノータッチの議員立法だったためかリーガルチェックが甘く、穴だらけの法律だった。たとえば住民投票で賛成多数になった以降の手続きは条文に記されていても反対多数の場合についてはまったく記されていない。この法の欠陥が2度の住民投票を許し、大阪市民の心を真っ二つに分断する結果を招いたのだ。


 以前にも書いたが、大都市法の廃止に向けて自民党大阪府連が動き出したことがあった。2度目の住民投票が終わった2020年11月、自民党大阪府連所属の国会議員らが中心となり勉強会を立ち上げ、同法の改正に向けて動き出したのだ。当初の目的は、大都市法の廃止である。しかし、自民党としては座長まで務めた現職の首相(菅)の顔に泥を塗りたくない思惑もあり、廃止案は却下された。


 じつは党本部で開かれた大都市法改正の勉強会の初回に私も講師として招かれ、同法の危険性について訴えた。会には大阪選出の自民党国会議員のほか他の政令市の地方議員、総務省と衆院法制局の官僚数名がオブザーバーとして参加していた。その官僚たちは、廃止については条文案の作成とチェックでかなりの手間がかかり、当時の国会中に提出することが時間的に難しいと説明していた。そこで衆院法制局のアドバイスもあり、大都市法の「廃止」ではなく「停止」を目指すことになった。以下、官僚が素案として出してきた大都市法停止法案である。


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 大都市地域における特別区の設置に関する法律の停止に関する法律


 大都市地域における特別区の設置に関する法律(平成24年法律第80号)は、別に法律で定める日までの間、その施行を停止する。


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 条文はわずかだが、シンプルで国会審議も簡潔だというのが官僚の説明だった。これだけで大都市法を停止することができるのだ。だが、この停止法は名前の通り、あくまでも一時的な措置にすぎない。完全に大都市法の息の根を止めるには、同法を廃止する以外にない。


 当時の自民党大阪としては様々なハードルは残っていたものの、あとは大都市法の停止法を国会に提出するだけというところまでこぎ着けた。ところが2021年10月末の衆院選大阪選挙区で事態は一変。このとき日本維新の会は大躍進し、自民党が全敗したことでこの動きは現在、実質的に停止している。自民党本部には大都市法停止法案をまとめる国会議員がいなくなり、同法案は棚上げになってしまったのだ。とはいえ、完全に頓挫したわけではない。そこで公明党に大都市法の停止か廃止に向けたアクションを引き継いでもらいたいのだ。


 大阪維新は都構想を「政策の一丁目一番地」と呼び、これが党のシンボル的な存在になっている。2度の住民投票の敗退でかれらの野望は頓挫したとはいえ、完全に死んだわけではない。大都市法という欠陥法がある限り、ゾンビのように生き返る可能性は高い。


 公明党は次の衆院選で日本維新と全面戦争になる。大阪の4小選挙区では「常勝関西」のプライドを賭けて戦うだろう。そこに大都市法の停止か廃止を訴える公約を掲げれば、支持者の学会員以外にも反維新の票を取り込める可能性が高くなる。選挙協力する自民党も反対はしない。むしろ積極的にアシストするだろう。と同時に、これまで大阪維新の軍門に降っていたという汚名も晴らせるのではないか。


 公明党には、ぜひともこの案を真剣に考えてもらいたい。(文中・敬称略)


<なお、この記事の無断転載は固くお断りいたします。>




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