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やっぱり地理が好き
~現代世界を地理学的視点で探求するメルマガ~
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第209号(2024年06月08日発行)、今回のラインアップです。
①世界各国の地理情報
~今後の日韓関係の未来予想図~
②コラム
~歴代韓国大統領の「対日スタンス」ざっくりマッピング~
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こんにちは。
地理講師&コラムニストの宮路秀作です。
日頃、周りの人たちからは「みやじまん」と呼ばれています。
今回で209回目のメルマガ配信となります。
6月となりました。
本メルマガのご購読を継続していただいたみなさま、大変感謝いたします。
ありがとうございます。
オーストラリアの首都キャンベラが設立されたのは1913年3月のこと。1901年にオーストラリアがイギリスから独立した後、「どこを首都とするか?」でシドニーとメルボルンが「首都誘致合戦」を繰り広げ、その妥協案として両都市の中間地点に新都市キャンベラが建設されます。
「あちらを立てればこちらが立たず」という言葉があるように、物事には二律背反が存在することがあります。一方の利益や要求ばかりを優先させてしまうと、もう一方の利益が損なわれてしまう様を表した言葉です。特に語源があるわけではないのですが、様々な場面でこの言葉が使われています。ビジネスパーソンがよく口にする「トレードオフ」という言葉がこれを意味します。
独立したばかりのオーストラリアにおいて、国論が二分することは避けたかったでしょうから、その妥協策としてシドニー、メルボルンのどちらも首都にはしなかったということでしょう。
こうして妥協案を見いだせるならばまだ良いのですが、どちらかにこだわってしまうと、時に「帯に短したすきに長し」といった状態になりがちです。この言葉の意味はみなさんもご存じの通りです。しかし、わたくしには、「長短の中途半端さを嘆き続けるよりも、結局はどこかで腹をくくってはさみを入れるしかない」という教訓に聞こえます。躊躇を重ねるたびに反物は光沢を失い、そして好機を逃す度に選択肢は減っていく。そんな状況に指をくわえて見ているくらいなら、思いっきりはさみを入れて、新しい価値を創り出す方が良いのではないかとさえ思います。
大胆に決断し、大胆に行動する。
大きな仕事を任される人にこそ、重要な心構えなのではないでしょうか。
それでは、今週も知識をアップデートして参りましょう。
よろしくお願いします!
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①世界各国の地理情報
~今後の日韓関係の未来予想図~
6月3日、韓国で新しい大統領が誕生しました。第21代韓国大統領に就任したのは、イ・ジェミョン(イ・ジェミョン)、「共に民主党」に所属する国会議員でした。
そもそもの発端は2024年12月3日のこと、前大統領の尹錫悦(ユン・ソンニョル)が「非常戒厳」を宣布し、「共に民主党」が北朝鮮と通じて反国家活動を行っていると非難したことに始まります。これによって韓国の憲法裁判所が「弾劾が妥当である」との判断を下したことからユン大統領は罷免され、2027年から前倒しで韓国大統領選挙が行われました。
まずは、イ・ジェミョン大統領の経歴を見てみましょう。
彼は、貧しい農家の家庭に生まれ、幼少期から工場で働いた苦労人だといわれています。
▼貧農の息子で13歳から工場労働…「辺境の弁護士」から与党大統領候補になったイ・ジェミョン大統領
https://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2021/10/11/2021101180005.html
1964年生まれで、慶尚北道の山村で育ち、学校にも満足に通えず13歳から工場労働に就きました。少年期の工場勤務中に事故で左手首に障害を負い、その後独学で高卒認定試験に合格します。1986年に22歳の時に司法試験に合格し、人権派弁護士として活動を開始しました。貧困や社会的弱者の支援に尽力し、地元の城南市で無料法律相談に携わる中で政治への志を固めたとされています。
政界入り後は、2000年代半ばから地方行政の場で頭角を現します。イ・ジェミョンは2006年に京畿道城南市長選に初挑戦し落選しましたが、2010年に再挑戦して初当選、以後2期8年にわたり城南市長を務めました。その間、市民生活を重視した積極的な福祉政策や透明性改革で注目を集め、「庶民派リーダー」として支持を広げました。
2017年には革新系与党「共に民主党」の大統領選候補予備選に挑戦し、文在寅(ムン・ジェイン)に敗れるも、これにて全国的な知名度を獲得します。2018年には京畿道知事に当選し、地方自治体の長としても経験を積みました。
2022年の大統領選挙では「共に民主党」の候補として出馬し、僅差で保守系のユン・ソンニョルに敗北します。しかしその後、2022年6月の国会議員補欠選挙で国政に転じ、「共に民主党」の代表を務めました。そして2025年、ユン前大統領の弾劾にともなう出直し選挙で大統領当選を果たしました。
「全身で貧困を経験した叩き上げの政治家」と自ら評するイ・ジェミョンは、特定の名門や派閥に属さない異色の経歴と強烈な個性で知られています。支持者からは弱者の味方として熱烈に支持される一方、歯に衣着せぬ物言いや過去のスキャンダルもあり、国民の評価は賛否が分かれる人物のようです。
■政治思想と基本スタンス
イ・ジェミョン大統領の政治思想は、一般に「進歩派・革新系」に分類されますが、彼自身は「経済成長と公正な分配の両立」を掲げ、実用主義的な現実路線を打ち出しています。経済政策では成長重視を明言し、AI・半導体など先端産業への投資育成によって雇用と中間層の底上げを図る戦略を示しています。大企業(財閥)への規制強化や労働者保護にも関心を示しつつ、企業との協調を模索する現実派でもあります。
▼李在明氏の「K-イニシアティブ」を解明する
https://www.dir.co.jp/report/research/economics/emg/20250602_025132.html
一方で所得格差の是正や社会福祉の拡充にも力を入れており、城南市長・京畿道知事時代には青少年手当支給や無料福祉サービスの導入など、いわゆる「基本所得」的な政策にも取り組みました。大統領就任後も農家への直接支援、全国民向け給付金制度の検討、さらには週休4日制への移行支援など大胆な福祉公約を掲げており、経済成長と公正な分配の両立によって国民生活の底上げを目指す政治姿勢のようです。
安全保障面では、進歩派らしく朝鮮半島の平和共存を重視しつつも、国防力そのものの強化にも言及しています。具体的には「韓国型3軸体系」(先制打撃「Kill Chain」、ミサイル防衛KAMD、大量報復KMPR)の高度化を掲げ、北朝鮮の核・ミサイルに対する抑止力構築を約束しました。
▼李在明候補「日本は重要なパートナー」 韓米日協力強化を公約=大統領選
https://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2025/05/26/2025052680084.html
これは保守政権と大差ない強硬な抑止政策ですが、一方で後述するように北朝鮮との対話路線を模索しています。総じてイ・ジェミョン大統領の基本スタンスは、国内ではポピュリズム的な大胆施策も辞さない人民重視の姿勢でありながら、外交や安全保障では理想論だけでなく実利とバランスを考慮する現実派の側面を持ち合わせているようです。
▼焦点:韓国新大統領は政治的分断修復できるか、内外政策でも課題山積
https://jp.reuters.com/economy/Y6HOFXUF6ZKSXLVCIMCQUNBLLA-2025-06-04/
■日本へのスタンス(歴史問題と実利外交)
イ・ジェミョン大統領の対日スタンスは、その経歴同様に異色かつ変化を遂げています。