ウェブで読む(推奨):https://foomii.com/00223/2021011021000075200 //////////////////////////////////////////////////////////////// 宮路秀作の本日ハ晴天ナリ ~「今、世界では何が起きているのか!?」を理解するための必要な基礎知識を知る~ https://foomii.com/00223 //////////////////////////////////////////////////////////////// みなさま、初めまして。 地理講師&コラムニストの宮路秀作です。 今回が初のメルマガ配信となります。末永く、よろしくお願いします。 本メルマガでは特に「地理」というものに主軸を置いた視座を提供していくつもりです。 国際情勢や世界経済、そして地理学などに少しでもご関心ある方にとって向学のために役立つことを期待します。 「世界各国の地理情報」、「ブロックチェーンは地理から学べ!」、「世界経済の統計を知ろう!」などが、今後の主なラインナップです。 さて、今回のラインアップです。 ①世界各国の地理情報 ~イギリスのEU離脱、なぜイギリスはブレグジットを目指したのか?~ ②ブロックチェーンは地理から学べ! ~経済危機とビットコイン①~ それでは、よろしくお願いします! //////////////////////////////////////////////////////////////// ①世界各国の地理情報 ~イギリスのEU離脱、なぜイギリスはブレグジットを目指したのか?~ 1.イギリスでのEU脱退 2016年6月23日、イギリスは国民投票の結果によってEU(欧州連合)からの離脱を決めました。投票結果は、離脱支持が51.9%、離脱反対が48.1%と僅差でした。 EU離脱の是非を問う国民投票が行われると決まったのは、話を遡ること2013年のことです。当時のイギリスは、2007年から始まった世界金融危機、2010年のヨーロッパソブリン危機、いわゆるユーロ危機などによって経済不況に陥っていました。 また、EU域内からイギリスへの移民が増加傾向だったこともあり、イギリス国内では大陸ヨーロッパに対する反感が高まっていました。実際に、2012年頃から2016年頃まで、EU域内からイギリスへの移民が増え続けており、逆にイギリスを出ていった移民を差し引いても、20万人程度の移民の増加があったとされています。 移民だからといっても、イギリス国民と同じように行政サービスを受けることができますので、移民の増加によって行政サービスの供給が追いつかなくなっていきます。新たに学校を増やす必要が生じ、病院に患者が集中して混雑するなどが目立つようになっていきました。 EU域外からの移民に関してはイギリス独自のルールを適用することで、移民の数に制限を設けることができます。しかしEU域内での移動に関しては、EUのルールが適用されます。もちろん、移民の人たちも納税しているのですが、イギリス国民からすると、「ちょっと最近、移民が増えてないか? そのせいで生活がやや不便になっていないか?」と思うようになっていきます。 こうした想いが積もり、ついにイギリスは「自分たちのことは自分たちで決めようぜ!」と考えるようになります。「テイクバックコントロール」という言葉が、国民の間で使われるようになっていきます。「自分たちでコントロールする権限を取り戻そうぜ!」という意味ですね。 2.経済的利益が欲しいイギリス 2016年、実際に国民投票を行うと、「EU残留」を希望したのは首都ロンドンとスコットランド、北アイルランドの人たちでした。産業が発達し、経済的にも豊かな地域では「EU残留」を希望する人が多かったのです。スコットランドといえば、北海油田の原油を背景とした石油化学工業、「シリコングレン」と称されるほどの先端技術産業が発達した地域であり、イギリスの中でも経済的に豊かな地域です。 スコットランドは経済的に豊かであることから、イギリスからの離脱を考える人たちが多いといいます。その証拠として、現在のイギリス国王である「エリザベス2世」を、スコットランドの歴史にエリザベスという王はいなかったという理由から、「エリザベス1世」と称する人がいるほどです。それだけイングランドとは異なる歴史を有しているという自覚があります。 さて、都市部には仕事が多く、技術を使って稼げる仕事があれば、時間を使うしかなくあまり稼げない仕事もあります。そういったイギリス国民があまり就きたがらない仕事を担っていたのが移民の人たちでした。そのため、都市部では「やっぱり移民は必要だよね」という意識が強かったのかもしれません。しかし、それほど仕事の多様性がない地域では特に排他的な考えになりやすく、「イギリスらしさがなくなっていく……」と危惧して離脱を叫ぶ国民が多かったといいます。 イギリスがEUを離脱する大きな理由に「貿易」問題がありました。例えば、FTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携協定)の締結をするために他国と交渉ごとをしようとすると、EU加盟国は独自にそれをすることができません。EUとして、例えば日本やアメリカ、カナダなどと交渉することになっています。加盟国の意見を反映させるため意思の決定が遅く、また加盟国ごとに産業の特徴が異なります。イギリスにはイギリスの得意な産業がありますので、これらを活かした貿易を行い、そのルール作りをしたいとなりますが、それはかないません。またイギリスは世界第5位のGDPをほこる国(2019年)ですから、経済的な自立は可能であるという算段があったことも間違いありません。 そもそもEUの前進であるEC(ヨーロッパ共同体)は、ECSC(ヨーロッパ石炭鉄鋼共同体)、EEC(ヨーロッパ経済共同体)、EURATOM(ヨーロッパ原子力共同体)といった組織が統合して結成されたものであり、中でもECSCは先の大戦のきっかけとなった資源産地の奪い合いを反省し、石炭と鉄鋼の共同市場を作り出すことで「紛争の火種」を取り除くことから出発しました。 イギリスは島国であり、資源産地を巡って戦争をしたわけでもなく、元々ECSCには入りませんでした。ECも発足した1967年ではなく、1973年に加盟したほどです。つまり、ECに入れば経済的利益が得られると考えたからの加盟だったわけです。そのためか、EU加盟国でありながら、未だに中央銀行とポンドという独自通貨を持っています。またEU域内では人の移動は自由であり、国境での入国審査をせずに域内の別の国へ入国することができますが、イギリスへの入国はイギリス独自の入国管理を行っていました。 ECは1993年にEUへと発展し、加盟国が増加し、ついに2004年に東ヨーロッパの国々が加盟しました。これらの国々はかつて社会主義を掲げていた国であり、経済の仕組みが異なる国だったわけです。東ヨーロッパの国々が加盟し、彼らと同じ仕組みを共有し、EUを運営するためのお金もたくさん出さなければならなくなります。年間1兆円ほどの予算を出していますが、イギリスのために使われているという意識は薄かったかもしれません。 3.なぜ国民投票を行ったのか? イギリスが国民投票の実施を決めた時の首相は、デビッド・キャメロンという保守党出身の政治家でした。保守党はもともとEUに対して懐疑的な考えを持つ人たちが多く、キャメロンは党内の意見をまとめることに苦労していました。そこで政権運営を盤石にするために、国民投票をすることで白黒はっきりつけようと考えたわけです。 つまり、一種の「ガス抜き」を図って、大陸ヨーロッパへの反感を沈静化しようと考えていました。実はイギリスはECに加盟して間もない1975年にも、EC離脱の是非を問う国民投票を実施しています。このときは離脱反対が離脱賛成を上回りました。要するに、「EUに反感をもつ人はいるだろうけど、国民投票にかければEU離脱反対派が勝つだろう」と高をくくっていました。 しかし蓋を開けてみると、離脱賛成が離脱反対を上回ってしまいます。こうしてキャメロン首相は辞任、後任にはテリーザ・メイが首相となりました。メイ首相は、本来はEU離脱反対の考えを持っていたと言われています。しかし、法的拘束力がないにせよ、国民投票で示された民意を重要視して、EU離脱に向けて調整役を担うこととなります。 離脱後にEUとの関係をどうするか?という政策を国内でまとめる必要があります。特に「移民については自分たちのルールで制限したい」という考えが離脱の根本原因であるため、これをEUと交渉します。しかし、EU域内では「ヒト・モノ・カネ・サービスの移動が自由化」されているわけですから、「ヒト」の移動の自由を手放すということは、モノ・カネ・サービスの移動の自由も手放すことであり、「移民の制限」は、EU単一市場からの離脱を意味しました。 しかし、イギリスは北アイルランドを領有しており、ここがアイルランドと陸続きとなっています。アイルランドはかつてイギリスの支配を受けていたこともあり、宗教対立を根本原因とした北アイルランド紛争が起こった地域でした。そのため和平が結ばれるさいに、北アイルランドとアイルランドとの国境移動は自由を保証しようという取り決めがありました。イギリスがEUを離脱すると、これがなくなってしまうわけです。もちろん、ここを移動する物品に関しては関税がかけられることとなりますので、商売のあり方が大きく変わってしまいます。 メイ首相は政治基盤を強化するために解散総選挙に踏み切りましたが、なんと与党が過半数を割り込んでしましました。そこで「他に良い解決策を探りながら、当面の間はEUとの強調体制を維持しておこう」という方針を掲げ、「離脱協定案」を作成します。2019年1月、これをイギリス議会に諮りますが、採決は否決されました。その後協定案は修正を重ねますが、合計3回の採決はすべて否決されました。こうしてメイ首相は無念の思いをにじませ涙を流し、首相を辞任しました。 ちなみにメイは、かつて地理学を修めた人でもある、地理プロパーです。 4.ボリス・ジョンソン登場 後任の座に就いたのは、ボリス・ジョンソンでした。ちなみにジョンソン首相は、キャメロン元首相の大学の同級生にあたり、旧知の仲でもありました。 さてジョンソン首相は、2019年9月3日、再開したイギリス議会を即座に閉会し、離脱反対の声を抑え込もうとしました。イギリスは議会制民主主義が誕生した国でもあり、議会に対するほこりは当然あるため、議員たちの反発を招きました。 そこで議会は「離脱期限を2020年1月末まで延期するようEUに要請すべし!」という法律を作って、ジョンソン首相に突きつけました。しかしジョンソン首相は2019年10月末までにEUから離脱するという公約があるためこれを受け入れず、解散総選挙に打って出ようとしました。しかし、イギリスでの解散総選挙は議員の3分の2以上の賛成が必要であり、解散総選挙の提案は否決されてしまいました。その後も2度にわたって解散総選挙の提案をしますが、すべて否決されてしまいます。 さらに、議会を閉会したことに対して市民が訴えを起こし、これに対して最高裁判所から違憲であるとの判決をうけてしまいます。そして9月25日に議会が再開されました。 ジョンソン首相は新しい提案をしました。「イギリスはEUの関税同盟から離脱する。そして北アイルランドには特別な規定を設けてアイルランドとの取引を続けられるようにする。是に関しては4年ごとに北アイルランドの了解をその都度得る」というものでした。この案にたいして、EUは全会一致で承認しましたが、イギリス議会が離脱合意案の採決を保留するという動議を提出し、これが可決されてしまいます。 そこでジョンソン首相はEUに対して、離脱期限を2019年10月末から、最長で2020年1月末へと延期することを申し出、EUはこれを了承します。 その後、ジョンソンは特例法案を提出して、解散総選挙の実施を決めます。3分の2の賛成を必要とする根拠は2011年議会任期固定法ですが、法案であるため過半数の賛成が得られれば良いものでした。こうして11月6日に議会は解散、2019年12月に解散総選挙を実施するとこれに勝利し、ついにイギリスのEU離脱が決定しました。さらに2020年6月には離脱への移行期間の延長はしない旨を表明しました。イギリスは今後はEUやEU以外の国々との通商交渉に力を入れていくこととなっています。 イギリス国内では、賃金水準の低い東ヨーロッパ諸国からの移民が増えたことで、イギリス国民の雇用機会が減少するのではないかという懸念があります。移民の受け入れは、EUに加盟している以上拒否できません。そして、異なる文化をもった移民や難民に対する税負担、文化的衝突の不安、それによる治安の悪化など、イギリス国民の感情が露わになったのが、ブレグジットの表明だったといえます。 その後、2020年12月31日23時にイギリスはEUと合意した自由貿易協定を発効させる法案を承認しました。賛成521,反対73の圧倒多数でした。これによってイギリスのEU離脱が完了し、EUの単一市場と関税同盟を抜けることとなります。イギリスは2020年1月31日をもってEUを離脱していましたが、その後は移行期間としてEUの通商規則に沿って行動していました。ジョンソン首相は「イギリスが『自由を手にした』」と祝い、「EUの友人たちとは違うやり方が自由に選べるし、必要ならばもっと良いやり方ができるようになった」と強調しました。さらに新年が明けると、「私たちは自由を手にした。それを最大限に活用するのは、自分たち次第だ」と、新年の挨拶を述べました。 //////////////////////////////////////////////////////////////// ②ブロックチェーンは地理から学べ! ~経済危機とビットコイン①~ ブロックチェーンは、それはビットコインから始まりました。 ビットコインを構成する要素に関する技術(要素技術)として、ブロックチェーンという技術が登場します。現在ではこの要素技術そのものにも注目が集まるようになりました。 ビットコインは、「暗号資産」として扱われます。これは2020年5月1日施行の「賃金決済法」の改正によって、それまでの「仮想通貨」から「暗号資産」へと呼称が変更されたことによります。これには、2018年頃からG20といった国際的な集まりの場では「crypto assets」という呼称が使用されるようになったという背景があります。 注意として、ビットコインのような暗号資産はブロックチェーン応用例の1つですが、暗号資産を実現するために必ずしもブロックチェーンを使う必要はありません。例えば、IOTA(アイオータ)はDAG(ダグ)と呼ばれる技術が使われています。 ビットコインの歴史は、2008年11月1日にサトシ・ナカモトを名乗る謎の人物(または団体ともいわれる)が、暗号学のメーリングリストへ投稿した論文「Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System」から始まります。 ビットコインをはじめとする暗号資産は、インターネット上で機能しているデジタル通貨です。しかし、法定通貨や電子マネーなどと違い、発行主体となる第三者の中央機関が存在しないという顕著な特徴があります。 例えば日本の通貨では、日本銀行という日本円の発行元となる中央機関が発行します。実際に日本円を使用するのは我々ですが、日本銀行は日本円の使用者からすると管理者という第三者の立場であり、それが承認された通貨であることを保証しています。もちろん実際には民間の金融機関も第三者の管理者的な立場です。 では、ビットコインはどうでしょうか? インターネット……、というとやや範囲が広いので、例えばインターネットの中でもビットコイン利用者からなるネットワークを「ビットコインネットワーク」と呼ぶことにします。ビットコインの場合、基本的にはビットコインネットワークに参加している全ユーザーのコンピューターが、同じ取引データを持っています。一定のタイミングで各ユーザーのコンピューター同士が同期を取り、すべてのビットコインネットワーク参加者が同じデータを持っている状態を保持します。このように、すべてのネットワーク参列者が対等な関係にあるネットワークを「Peer-to-peer(ピアツーピア、P2P)」ネットワークと呼びます。P2Pネットワークは分散型ネットワークの1種です。 この状態で参加者が、例えば「マイニング」という行動をとったときに、ビットコインネットワークで全参加者が共有しているビットコイン本体のプログラムが、(「マイニング」した参加者に対し)新たなビットコインを発行します。 分散型ネットワークでのデジタル通貨というのはビットコイン以前にも模索されていていましたが、日本銀行のような管理者が存在しないため、同じ通貨データをコピーして使うような二重払いの問題をなかなか克服できませんでした。先述した「マイニング」という行動をユーザーにとらせることで容易にコピーできなくして、ビットコインはこれを克服しました。 (次号へつづく) //////////////////////////////////////////////////////////////// 本ウェブマガジンに対するご意見、ご感想は、このメールアドレス宛に返信をお願いいたします。 //////////////////////////////////////////////////////////////// 配信記事は、マイページから閲覧、再送することができます。ご活用ください。 マイページ:https://foomii.com/mypage/ //////////////////////////////////////////////////////////////// ■ ウェブマガジンの購読や課金に関するお問い合わせはこちら info@foomii.com ■ 配信停止はこちらから:https://foomii.com/mypage/ ////////////////////////////////////////////////////////////////