… … …(記事全文4,109文字)前稿では、蓮池薫著「日本人拉致」(岩波新書、以下「本書」という)を取り上げた。本書には、私の知らないこと(直接聞いていない、メディアを通じて間接的にも見聞きしていない)情報がいくつかある。本稿ではその点について述べたい。
●「決断」を後押しした言葉
一時帰国した弟は、北朝鮮へ戻って子どもたちと取るか、日本に留まって両親を取るかという究極の選択を求められた。弟は苦慮を重ねた結果「そんな選択など出来ない。両方取りたい。そのためには日本に留まって、子どもたちを待ちたい」と決断した。その決断には、私の必死の説得、両親や友人たちの言葉が大きく寄与したものとずっと思い込んでいた。しかし、本書では以下の記述があり、しかも2度も出て来る。
「(北朝鮮を)出発前から、それはあくまで日朝間の交渉過程における『一時帰国』である、と言いきかされていた。拉致の当事国、しかし両親が日本人であることも知らせてこなかった子どもたちが残されている北朝鮮に戻るのか。生まれ育った日本に留まり子どもたちを待つのか。この決断をめぐる葛藤のなかで、私の背中を押してくれた言葉があった。
『日本に戻ったら、そのまま日本に暮らすべきだよ』
これは日本に発つ数日前、北朝鮮のある人にかけられた一言だった」
「私は驚き、わが耳を疑った。なぜなら北朝鮮のひとたちは、われわれ日本人拉致被害者たちは機密保持のため、必ずや北朝鮮に戻らなければならないと考えていると思っていたからだ」