… … …(記事全文3,464文字)●タイトルがシンプルすぎる
弟、蓮池薫が「日本人拉致」(岩波新書)を5月20日に出版した。拉致問題に関する書籍は数多ある中で埋もれてしまうようなタイトルである。「もっとセンセーショナルで、奇をてらったものにするべきではなかったのか」という私の問いかけに、弟は「いろいろ考え議論したが、結局シンプルに、そこに落ち着いた」と返ってきた。
●「拉致と決断」とは対照的
読んでみると、なるほどシンプル過ぎるほどに、北朝鮮での24年間を振り返り冷静に分析している。また、2010年10月に刊行された「拉致と決断」(新潮社)では、非常に抑制的な表現が目立ったのとは対照的に、固有名詞を使って文章が構成されている。北朝鮮労働党の幹部などを名指しすることには、大きなリスクが付きまとうと考えるのが普通である。しかし、今回弟はそんなことはお構いなし、ある意味吹っ切れたのであろう。
弟が本著の中で、「なぜ自分は拉致されたのか、その結末はどうだったのか、自分たちだけが帰国できたのはなぜなのか―などの問いが頭を離れなかった。北朝鮮ではただ言われるがままに行動させられ、その意図については何も教えられないのが常だった。答えを出そうと、北朝鮮での24年間を、嫌になるほど思い返してもみたし、専門家たちの拉致問題関連書も数多く読んだ。ようやく人前で話せるほどに拉致の全体像が見えてきたのは最近のことだった」と述べていることから察しが付く。