… … …(記事全文3,635文字)●入院3日目
母が入院して3日目、持参した上履きの甲部分が狭くて痛いというので、代わりのゆとりのある靴、それからカーディガンを届けに病院を訪ねた。病院は、面会は原則週1日15分間のみと定めているが、母のように症状が小刻みに変化する可能性がある患者に対して融通を利かせてくれており、私としてはありがたい。
面会した母は相変わらず生気がなく、全く喋らない。こちらの問いに対しても、ただ首を振るだけである。「この靴は、甲の部分がベルトになっていてベルクロで調節できるからね」と説明しても分かったのか、分かっていないのか判断がつかない。看護師によれば、食事にはほとんど手を付けないとのことである。そのため毎日点滴をしているという。看護師から洗濯物を受け取り帰宅した。
●父には「来ないでくれ」
4日目面会すると、昨日の靴を履いていない。重たい靴を履き続けているので、「昨日の靴を履いておくれ」と伝えた。「お父さんが会いたいと言っているよ」と告げると、強い反応を示した。首を何度も横に振り、蚊の鳴くような声で「こんな姿を見せたら、がっかりするから来ないで欲しい」と話した。もう少し元気になったら、という意味なのだろう。だが、昨年父が大腿部を骨折した際に散々父に悪態をついていた母である。さすがに決まりが悪かったのだろう。当の父は、もう余命がなく一目だけでも会っておきたい、となぜかとんでもない勘違いをしているのだった。
●深夜に母から無言電話
深夜2時過ぎに母から2回電話がかかってきた。いずれも応答したのだが、無言だった。母は無類の電話好きである。毎日、誰かに電話をし、人の悪口などたわいもないことを延々と話している。しかし、入院してからその気力もないのか電話をかける様子はなかった。相手が電話に出ない場合、出るまで何度もかける人なので、余計に心配になった。
蓮池透の正論/曲論
蓮池透(元東京電力原子力エンジニア)