Foomii(フーミー)

蓮池透の正論/曲論

蓮池透(元東京電力原子力エンジニア)

蓮池透

夏が来ると思い出す~弟が消えた日

●海のまち柏崎市

また夏がやって来た。私が暮らす新潟県柏崎市は「海のまち」として知られる。海水浴場は由緒ある鯨波海岸をはじめとして、番神海岸、東の輪海岸、中央海岸などがあり、シーズン中には県内外から多くの観光客が訪れる。


小学校時代は、クラス単位で小高い砂丘を徒歩で越えて、荒浜海岸という場所で海水浴をしていたものだ。日々の暮らしと海とは密接な関係があり、曇天で暗黒の世界となる冬とは正反対の夏には、その鬱憤を晴らすかのように海へ足繁く通った。海水浴だけではなく、釣りも楽しんだ。海岸からの投げ釣りで主に狙うのはシロギス、他にカレイ、コチ、たまにチンチン(クロダイの幼魚)が釣れることもあった。手漕ぎボートやゴムボートで海上に出れば、短い釣り竿でほとんど入れ食い状態で釣れたのを覚えている。


私も鏡面のように静かで、見通しの良い海岸線の沖合には佐渡島を臨む柏崎市の夏の海が大好きだった。また、冬の怒涛渦巻く海もそれなりの趣があり、それを目当てに県外から来訪する人もいるほどだ。


●アベック道路

中央海岸から松の木からなる防砂林を隔てたところに一本の道路が走っている。昔から、たくさんのアベック(恋人どうしの二人などカップルのこと)が、日本海に沈む夕陽を観るためにクルマを走らせたことから、地元では「アベック道路」と呼ばれていた。


そのアベック道路を横断し、防砂林の中を通り海岸へ出た弟の薫と恋人奥土祐木子は、左へ行くか右へ行くか思案したという。もちろん、目当ては海に沈む夕陽を二人きりで満喫するためだった。しかし、左右どちらかへの判断が、その後の自分たちの人生・運命を左右してしまうなどとは思いもよらなかっただろう。

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