… … …(記事全文4,148文字)●過去の北朝鮮のスタンス
安倍晋三元首相以降、繰り返されてきた「条件を付けずに金正恩総書記と向き合う」に対する北朝鮮側の反応は、以下のとおり日本側を猛批判する厳しいものだった。
「次の首相に誰がなろうと北朝鮮への敵視政策を踏襲する政治家とは付き合わない」
「前提条件のない日朝首脳会談を希望すると言及してきた日本の当局者の立場を自ら否定している」
「前世紀に朝鮮を武力で占領し、拉致や虐殺、性奴隷生活を強要した日本が国際舞台で『拉致』や『人権』をうんぬん言うこと自体が恥知らずの極みだ」
「拉致問題はすでに最終的に完全無欠に解決された。被害者全員帰国が実現しなければ解決があり得ないと駄々をこねるのは妄想だと日本は肝に銘じるべきだ」
●微妙な変化
ところが、昨年5月、北朝鮮は「日本が関係改善の道を模索しようとするなら、両国が会えない理由はない」と日朝首脳会談に前向きとも取れる発言をした。岸田文雄首相が「会談を早期に実現するため、私が直轄するハイレベル協議を行いたい」と表明したことを受けてのものである。
●金与正党副部長の談話
そして、2月15日午後8時、朝鮮中央通信が「金与正朝鮮労働党中央委員会副部長の談話」を報じた。これは、岸田首相の2月9日の衆院予算委員会における「日朝間の現在の状況を大胆に変えるべき必要性を強く感じる」「自分自身が朝鮮民主主義人民共和国国務委員長と主動的に関係を結ぶことが極めて重要であり、現在多様な経路を通じて引き続き努力している」とした発言に対する反応と解される。特に岸田首相が「大胆に変えるべき必要性」と言及した点を強調している。
「金与正談話」は「岸田首相の今回の発言が、過去の束縛から大胆に脱して朝日関係を前進させようとする真意に端を発したものであるなら肯定的なものと評価することができない理由はないと考える」と高評価した上で、「条件付き」で「両国が近くなることができない理由などないであろうし、首相が平壌を訪問する日が来ることもあり得る」と岸田首相の平壌訪問の可能性にまで言及した。
その条件とは、「これまで日本が、すでにすべて解決した拉致問題や、朝日関係改善とは何の縁もない核・ミサイル問題を前提として持ち出し続けてきたことによって両国関係が数十年にわたり悪化の一途をたどることとなったということは、誰もが認める事実である」「日本がわが方の正当防衛権に対して不当に食って掛かる悪習を振り払い、すでに解決した拉致問題を両国関係展望の障害物として置くことさえしなければ両国が近くなることができない理由などないであろうし、首相が平壌を訪問する日が来ることもあり得るであろう」。つまり、拉致問題を関係改善の障害物にしないよう岸田政権が政策転換を図ること、核・ミサイル開発に文句を言わないことである。さらに、談話は「個人的な見解」で、日朝関係に関する北朝鮮の公式な立場ではないとしている。
●日本メディアの報道
日本メディアの報道を見ると総じて談話の受け止め方は懐疑的である。「北朝鮮の仕掛ける宣伝戦」「訪朝言及 首相判断難しく」「日米韓連携に揺さぶりか」「岸田首相の本気度を試すためか」の見出しが目立つ。また「北朝鮮側が大きく譲歩でもしたかのような印象を与えながら、そこへたどり着くためには大きな『障壁』があることを明確にしたといえるもので、北朝鮮の『譲歩』にはほど遠い。巧みな宣伝扇動のテクニックだ」と批判するメディアもあった。
林芳正官房長官の次のコメントも報じた。「金与正副部長が談話を発出したことには留意をしています。北朝鮮側の発表の一つひとつにコメントすることは差し控えたいが、拉致問題が、すでに解決されたとの主張は、全く受け入れられないと考えています」
●私の受け止め
蓮池透の正論/曲論
蓮池透(元東京電力原子力エンジニア)