Foomii(フーミー)

蓮池透の正論/曲論

蓮池透(元東京電力原子力エンジニア)

蓮池透

北朝鮮での生活を冷静に振り返るまで帰国後10年を要した

ウェブで読む(推奨):https://foomii.com/00200/2022081206000098030 //////////////////////////////////////////////////////////////// 蓮池透の正論/曲論 https://foomii.com/00200 ////////////////////////////////////////////////////////////////  標題は、信濃毎日新聞のインタビュー記事における弟の発言である。弟のことは一番理解していると自負していたが、この一言には驚愕した。もちろん、まだ帰国できていない拉致被害者がいることから、弟が24年間にわたる北朝鮮での体験を明け透けに話す自由は、未だ回復していないことは何度も触れてきた。今でも突如思い出したように「あっちではこうだった」と聞いたことのない事実を断片的に話し始めることがある。本人は、初めて話すという自覚がないのだと安易に考えていた。だが、私の想像力がいかに貧弱なものだったかを思い知らされた。 ●10年の歳月が必要だった  インタビュー記事を引用する。 「北朝鮮での生活を冷静に振り返るまで、帰国して10年の歳月が必要でした。自分が置かれてきた状況が一体何ゆえああいうふうになったのかが見えていない」    暴力的に拉致され、彼の地での生活を余儀なくされた理不尽さは、想像を絶するものであり、それを現実のものと認識するのに10年を要したということだろう。ショックを受けた。どれだけ悶え苦しんだのか、計り知れない辛さがあったのか。「共有する」などと言ったら弟に対して失礼であるのは自覚している。しかし、そこまで思いを巡らすことさえできず、「帰国したから良かった」と軽率に考えていた私自身を恥じ入るばかりだ。そんなに生易しいことではなかったのだ。 「もう一面は、やはり北朝鮮が呪縛となっているというか、日本に帰ってきていても、非常に恐ろしい。どういうことを仕掛けてくるか分からなかった。もろもろの考え方を整理する上で、10年くらいかかりました」  帰国してもなお北朝鮮に対する脅威があった。これには、私も思い及んだが、警察が警備をしてくれており、それほど深刻に考えていなかったのが正直なところだった。むしろ、当時私が懸念していたのは、夜な夜な北朝鮮と交信している。つまり、弟は帰国してスパイ活動をしているのではないかといった噂の方だった。しかし、弟にすれば手段を選ばず攻撃してくるかもしれないと考えて当然だったのだろう。誰もが想像することができなかった開けた海岸線で拉致される実相について、身を持って知っているのだから。そして、北朝鮮においても「将軍様」の一存で何度も命の危殆に瀕したと聞いている。
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