Foomii(フーミー)

藤井聡・クライテリオン編集長日記 ~日常風景から語る政治・経済・社会・文化論~

藤井聡(京都大学教授・表現者クライテリオン編集長)

藤井聡

プラトン『饗宴』:「愛(エロス)」を論じた不朽の名著。「真の愛」とは真善美への憧憬であり、その永遠的所持であるが故に、あらゆる生産、職業、教育、戦いの源泉となる。

本日夕方5時から、「死ぬまでに読みたい世界の名著」というオンライン読書ゼミにて、プラトンの「饗宴」をとりあげます。

https://www.amazon.co.jp/dp/4003360133/


そのゼミのために用意したメモを、下記にご紹介差し上げます。


この本は、当方が20代かから30すぎの頃に(対話編「国家」で感銘を受けた後に)読んだ本で、具体的にどうやって生きていけばいいのかをについて滅茶苦茶デカい啓示を受け、それ以後、自分の人生の指針(クライテリオン)の一つにしてきた本です。


四半世紀ぶりくらいに読みましたが、確かにここでプラトン・ソクラテスが描写していた「域外ある人生」のプロセスに大きく重なる軌跡を、この四半世紀歩んできたっていえば歩んできたよなぁ…と改めて感じました。


ご関心の方は下記X記載の情報、ご参照ください!

https://x.com/SF_SatoshiFujii/status/1959058171382968811



【プラトン『饗宴』

 

1. 『饗宴』とは

プラトンの対話篇の一つで、紀元前4世紀に執筆。

舞台はアテナイの詩人アガトンの家で開かれる饗宴(酒宴)。登場人物たちが「エロス(愛)」について順番に演説を行い、その多様な解釈と議論を通じて、最終的にはソクラテスが導く哲学的な真理へと至る。

 

ソクラテス「実際僕のなんか実に価値の少いものかさもなくばただ夢のようにいかがわしいものさ」(=無知の知)

 

2. 登場人物と役割

アポロドロス:冒頭と結末で語り手を務める。全体を回想形式で導入する。

 

ファイドロス:

・最初の演説者。「愛は最も古い神であり、人間に徳をもたらす力がある」と強調する。⇒愛が人間に勇気や徳を与えることを示し、愛を倫理的基盤とする。

「ある。実際私は、早くも少年に当って立派な愛 者を持つこと、また愛者にとっては愛する少年を持つこと以上に大なる好事が在るとは主張し得ぬのである。」

「実際愛者なる男にとっては、その持場を離れたり、または武器を投げ出したりするところを愛する少年に見られることは、疑いもなく他の何人に見られるよりも遥かに堪え難いことであろうまた彼はそれよりもむしろ幾度でも死ぬことを願うであろう…ず、対手のために死のうとまで決心する者はただ愛する者だけである」

「ある.エロスは神々のうちの最年長者であり、もっとも崇敬すべき者であり、また徳と幸福との獲得に当っては生前死後を通じて人類にとってもっとも権威ある指導者である」

 

パウサニアス:

愛には二種類あると説く(フェドロスの愛は、民衆の愛でなく天の愛だ、と繋ぐ)。

天のアフロディーテ:「天上的愛(精神的・知的な結びつき・有徳性への敬愛)(青年愛)」と

民衆のアフロディーテ:「俗なる愛(肉体的欲望)(男女の愛)」

を区別。⇒愛を二分法で整理し、知的な愛を高次に位置づける。

「(愛は)美しくかつ正しくなされた場合には美しく、正しからぬ場合には醜い」

「恋に落ちた場合に、彼ら(=万人向けの「俗なる愛」を持つ者)は魂より以上に肉体を愛し、最後には、でき得るかぎり愚昧なる者を愛する」

「もっとも高貴にもっとも優秀な者をたとい彼が他のものよりは面貌が醜いにせよ愛するのは特に美しい」

 

エリュクシマコス(医師):

パウサニアスの「天の愛」は、青年に対してのみで無く、万物に対して、万物が持ちうるもの。

「この神は偉大な驚嘆すべき神であって、人間の事といわず神々の事といわず、一切の上にその勢力を張っている」

その「天の愛」を宇宙的原理と捉え、身体・自然・音楽など全てを調和させていく力とする。⇒自然科学的観点を導入し、愛を宇宙的調和の原理とする。

「パゥサニヤスも今いったように、同胞のうちの有徳な人の意に従うのは美しく、放縦な人に従うのは恥ずべきであるが、同様に、肉体そのものの場合にもまた、すべて肉体のうちの優良素と健全素の意に従うのは美しくかつ義務に適う(そうしてこれこそ、医術と呼ばれるものなのである)これに反して不良素と病素に従うのは恥辱であり、いやしくも専門家をもって任ずる者は、その意(つまり不良素・病素の意)に従わぬことを義務とする。」そしてこれは、体育、農業、音楽…季節の変遷においても、卜占術(ぼくせんじゅつ=神々と人間の交流)と同じ。この愛がなく、俗悪なる放縦の愛が支配すれば、破壊が行われる(まさに現代社会)。

(⇒これこそ「大衆社会の処方箋」における「独立確保」と「活物同期」の原理)

 

 

アリストファネス(喜劇詩人):

「球体人間の神話」を語る。かつて人間は球体で全てを備えた存在だったが、ゼウスにより二つに割かれ、以後「失われた半身」を求めて愛するのだと説く。⇒神話的寓話を用い、愛を「欠如の補填」として説明する。

「古来、性には三種あった、すなわち現在のごとくただ男女の両性だけではなく、さらに第三のものが、両者の結合せるものが、在ったのである.そうしてその名称は今なお残っているが、それ自身はすでに消滅してしまった。すなわち当時男女1といって、形態から見ても名称から見ても男女の両性を結合した一つの性(男女 おめ:球体をして手足が4本ずつあり、8本の手足で回転しながら移動)があった」

ただし、男女はあまりにも強く神々に挑戦するようになったので、神々が二つに分離して弱めた⇒そして男女ができた。

「人間の原形がかく両断せられてこのかた、いずれの半身も他の半身にあこがれて、ふたたびこれと一緒になろうとした。そこで彼らはふたたび体を一つにする欲望に燃えつつ、腕をからみ合って互いに相抱いた」

「現れの原始的本性が…われわれが全き者であったというところにある。それだからこそ、全き者に対する憧憬と追求とはエロスと呼ばれている」

「昔ながらの本性に還元しつつ自分のものなる愛人を獲得するとき、ただその時にのみ人類は幸福になることができる」

 

アガトン(悲劇詩人):

愛=エロスを美しく若い神として賛美し、善き徳(公正、自制、勇気)、美しき芸術、医術、射術、予言術の「源泉」と述べる。

⇒修辞的に美と善を賛美。参加者全員がこれを賛美する。

 

ソクラテス:

・アガトンはエロスをあらゆる真善美の源泉であると論じたが間違い。なぜなら、持っているなら求める=愛する事等ないからだ。エロスが真善美を求める=愛するのなら、エロスは、真善美を持たぬと考えざるを得ないではないか!とアガトンを論破。

・エロスは「真善美」と「偽悪醜」の中間に位置する「神霊」(ダイモーン)であり、真善美を愛し偽悪醜を憎み、真善美に近づかん、永久保有せんとしている。

・「神」と「人間」の中間に位置し、両者の交流を可能とせしめている。

(祈願―命令)←卜占、啓示等  (お供え物―報酬)

・エロスは…母は窮乏の神ペニア、父は(巧知の神の子)術策の神ポロス

      だから、肉体は粗野、しかし極めて聡明で善と美を愛する愛智的精神を持つ。

・愛智とは、無知者でも智者でもなく、その中間の存在である。

 愛されるものは神(智者)、愛する者はエロス(愛智者)

・「愛」する=真善美を永久保有せん

=「美の内に生産せん」「美しい者の中に生殖し生産すること」

=美しきものを(この非不死の世界において何とか生殖を通して)永続させんとする

=子を産み、子を育て、守ろうとすること…それは全て真善美を永続させんとすること(=日本を守らんとすること、保守せnすること、憂国の年を持つこと…これも全て愛である)

 

エロス(愛智者)は心身共に美しい異性と子をもうけ、子を育てる「生産衝動の漲れるものが美しい者に近付き行くとき、彼は心勇みまた歓喜に溢れる、そうして生産し受胎させる。けれども反対に醜い者に近づくとき、彼はいつも面貌憂鬱となり、不機嫌に内に籠もり、身をそらし、引き下がり、受胎させずにただ苦しき主にとしてその生産良くを持ち続ける。それだからこそ生産欲と胚種に満ちあふれている者は美しい者に対して強烈な興奮を感ずるのです。

エロス(愛智者)は有能な弟子に教えることもする「彼は、醜い肉体よりも美しいのを悦び、また、美しくて気高くてかつ天稟の優れた魂にめぐり合わすようなことでもあれば、かく両方のよく揃っているのを非常に歓迎するでしょう。そうしてこのような人に対しては徳のことや、有徳者がどういう者でありまた何を業とすべきかなどについて直ちに滔々たる弁舌を浴びせて、これを教育しようとするでしょう。」

エロス(愛智者)は美しい人と恋愛・友情を強固に育む「思うに彼がひとたび美しき者に接触し、これと交わるようになれば、彼は既に久しく身に宿していたものを生産し想像する、そばに居ても離れていても、彼はその人のことを思い、また出生したものをその人と共に育て上げる。その結果、こういう人々は肉身の子供がある場合よりもはるかに親密な共同の念とはるかに強固な友情とによって互いに結びつけられる。その共有するものが一層美しくて一層不死な子供なのですから。」

 

  1. まず最初に一つの美しい肉体を愛し、美しい思想を産み付けねばならない。
  2. それをさらに普遍化し…心霊上の美を肉体上の美よりも高いものと考える。
  3. そうすると、職業活動やシステムの中にも美を看守し、最終的に学問的認識の方に関心を向け、「限りなき愛智心から多くの美しくかつ崇高な言説と思想とを生み出し」ていく。そしてそれもって、さらに自分自身が成熟し、あらゆるものの中に「美しい思想」を産み付けていく。
  4. そして、最終的な「真善美」(最高美)に到達する。

⇒これが、「エロスの階梯(愛の段階的上昇)」を語る。

一つの美しき肉体⇒二つの肉体⇒あらゆる肉体へ、

 ↓

美しき職業活動へ

 ↓

美しき学問へ

 ↓

最後美へ(ここに至りはじめて、人生の生きがいが生まれる)

ここに至れば、美を心眼で観ること以外何も要らぬ…という境地に至る

 

アルキビアデス:

・最後に酔って乱入し、ソクラテスへの個人的な愛と尊敬を語る。

・ソクラテス自身が、ソクラテスが論じたエロスの人間として生きてきたことを、自身の体験で以て明らかにする。

 

4. まとめ

・エロースの本質:一般的な議論を集約しつつ。愛は単なる欲望ではなく、不死性・永遠性を求める運動であるということを明らかにした。

・イデア論における」哲人」となる道筋を、エロスを通して具体的に描写。その中で、芸術・哲学との関係:肉体や芸術を愛することも「真の美」への足がかりであることを示した。

 

■「愛」について:補足

・藤井・鈴木の地域愛着研究の地域愛着の三分類

認知的愛着:便利・役に立つ(「知」的愛)      cognitive 認知的

情緒的愛着:感情的に好き(「情」的愛)         affective 感情的

防衛的愛着:守りたいという愛着(「意」的愛着) behavioral 行動的

「地域愛着が地域への協力行動に及ぼす影響に関する研究」(土木計画学研究・論文集, Vol.25, No.2, pp.357–362, 2008)

 

・西田幾多郎

「絶対矛盾の自己同一」

  憎     愛

分離の原理 同一化原理

 

… … …(記事全文5,096文字)
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