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藤井聡・クライテリオン編集長日記 ~日常風景から語る政治・経済・社会・文化論~

藤井聡(京都大学教授・表現者クライテリオン編集長)

藤井聡

「年収の壁178万円に引き上げ」に伴う「税収減」は「成長だけ」で賄える!7.5兆円税収減の場合2.2~6兆円,2,4兆円税収減の場合0.7~1.9兆円も「税収が増える」.残りの減収分は「0.3%~3.3%の経済成長で「賄える」.

玉木国民民主党が打ち上げた103万円の壁の178万円への引き上げ.

 

国民の手取りを増やし,経済を活性化し,国民生活を救う案として効果的であるばかりではなく,憲法に定められた国民の「健康で文化的な生活」を護る為の対策として必要不可欠なものでもあります.

 

しかし,自民党,とりわけ税制調査会の宮沢会長等を中心とした緊縮派,ならびにその背後でかれらを差配する財務省は,これに徹底的に抵抗し,物価上昇率を根拠に123万円までの引き上げでお茶を濁そうとしています.

 

そしてその際の逃げ口上として「恒常的な財源を示せ」と玉木氏に迫っています.

 

つまり,178万円まで引き上げると,税収が7-8兆円減るが,その分をどうするのかを言わなければそんなの無責任じゃないか!と恫喝的に玉木氏を責め立て,178万円引き上げを阻止しようと財務省=ラスボス宮沢=自民党税調=石破政権は迫っているわけです.

 

そんなもの「国債」でいいに決まっているのですが,彼らはそれを絶対に認めません.実際は,毎年国債を発行してるわけ国債で財源を賄うなんて当たり前の話なのですが,とにかくタテマエとしては国債を発行してはダメだとなっているということで,財務=自民=石破政権(さらについでに言うとそれに追随うるオールドメディア=主流派経済学者=エコノミスト達)は国債以外の財源を示せ!と玉木氏に声高に主張し続けているわけです.

 

で,そんな状況に対抗するため,玉木氏らは「最終的な財源は成長だ!」と主張しています.

 

常識で考えてまさにその通りで,当方も大いに賛同します.

 

…が,政府与党側は「そんなの無責任だ!どれだけ税収が増えるか分からないじゃないか!」と言い張り,なんと居てでも178万円引き上げを阻止しようする構えを見せています.

 

…ということで当方,都市社会工学専攻の教授として,また,アベノミクスの参与の一人として,理数系的に178万円まで壁を引き上げ,7-8兆円の所得減税が行われた場合(ここでは便宜上,その中間値の7.5兆円だとしましょう)に,実際どれくらい税収が増えるのかを理論的統計学的に推計してみることにしました.

 

求め方は次の通り

 

(ステップ1)所得税減税が行われた場合のGDP名目成長率を推計する(その方法は,現状の国民の「平均消費性向」から特定される「乗数効果」に基づいて推計).

(ステップ2)上記(ステップ1)で求めたGDP成長率に基づいて,税収増加率を推計する(その方法は,1998年以降の「GDP成長率」(ステップと「税収増加率」の統計的な関係の実績値に基づいて推計される「税収弾性値」を用いて推計する)

(ステップ3)現状の総税収に,上記(ステップ2)で推計した税収増加率を乗じて,税収増加分を推計する.

 

より簡潔に書くなら,次のように推計するわけです.

 

7.5兆円所得税減税

 → 「乗数」を用いてGDP成長率を推計(ステップ1)

 → 「税収弾性値」を用いて税収増加率を推計(ステップ2)

 → 税収増分を推計(ステップ3)

 

ちなみに「乗数」や「税収弾性値」について,政府は「1.1」という数値を頑なに使い続けています.しかしこれは,実証的にも理論的にもあり得ない数値なのです.が,政府は政府に忖度をする所謂御用学者達,御用シンクタンク達が,捏造的につくりあげた(でっちあげた)論文や報告書を根拠に,「1.1なのだ」と主張しています.

 

ちなみに,乗数・税数段精緻が1.1の場合,以上のアプローチに基づいて税収増分を求めると…

 

GDP成長率=(7.5兆円×(1.1―0.1))/595.2兆円(※1)=0.13%

   ※1 2023年度名目GDP

税収増分=72.1兆円(※2) ×  (0.13%×1.1) =0.1兆円

   ※2 2023年度税収

となります.つまり,政府が勝手に決めた怪しい数値を使うと,玉木減税をやっても0.1兆円しか増えない,ということになってしまいます.その結果,7.5兆円―0.1兆円=7.4兆円も税収が減る,ということになります.

 

…が,税収弾性値も乗数も1.1だなんてことは,京都大学の都市社会工学専攻教授の職を賭し,天地神明に誓って絶対にありません.

 

まず,税収弾性値ですが,これは,「GDPが1%成長したときに,税収は何%増えるか?」という数値ですが,それは純粋に現状の日本の経済税制状況を踏まえた上で,「実績値」で推計する必要があります.税率が0%の国なら弾性値は0になりますし,あらゆる税率が高ければ弾性値はずっと大きくなるからです.

 

実際,日本がデフレに入った1998年以降の「各年の税収弾性値」(=各年の税収増加率を当該年の名目成長率で除した値)の分布(ヒストグラム)を取ってみると以下の様に,おおよそ2.5程度であることが分かります.

(異常値でマイナスになっているものもありますが,全体の一部のいわゆる異常値です.逆に税収弾性値が5以上のケースも多数あることが分かります)

 

 

したがって,この過去の実績から考えて,1.1が平均だなぞと主張できることなど,万に一つもあり得ない話なのです.つまり,政府はコレまで税収弾性値について実績の半分以下の水準を採用し続けてきたのです.

 

これはひとえに,減税や財政出動をやったときの税収増という「見返り」が低いのだということにしておいて,減税や財政出動を阻止しようという「意図」があったからだと考える他に常識的な大人が納得できる理由など何一つないでしょう.

 

一方,「乗数」,つまり,「1兆円の財政出動を行ったときにGDPが何兆円増えるのか?」という数値について言うなら…

… … …(記事全文5,690文字)
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