… … …(記事全文4,747文字)以前ご紹介さし上げました、当方の処女作『社会的ジレンマの処方箋』 の復刊でありますが……
https://in.24criterion.jp/24shaka2520_sns
復刊にあたって、冒頭にどういう思いで本書を復刊したのか…についてのはしがきを掲載いたしました。
本書の学術的意義、ならびに、本書の当方の公的活動における意義などをまとめたものと成っておりますので、皆様にも共有さし上げたいと思います。
是非ご一読下さい。
『社会的ジレンマの処方箋』 2024年復刊にあたって
拙著『社会的ジレンマの処方箋』を出版したのが今から二十一年前の二〇〇三年、京都大学から東京工業大学に助教授として赴任して二年目の秋であった。当時の筆者は学術界、そして一般の世間における世論・論調に決定的な支配的影響を与えそれを通して巨大な公的被害(すなわち、外部不経済・社会的費用)をもたらし続けていた「主流派経済学」あるいは「新古典派経済学」に対抗しうる理論的フレームワークとして「社会的ジレンマ」なる理論的構成概念に大いなる期待を寄せていた。社会的ジレンマ理論そのものが、主流派経済学・新古典派経済学が公益上の巨大被害もたらしているということを明確に数理的理論的に論証してみせるものであったからだ。したがって、最低限の知性と一定の良心を持つ者達がこの理論を理解すれば、世に害悪をもたらし続けている主流派経済学・新古典派経済学の反社会的な力を僅かなりとも削ぐことができ、この世界は確実によきものへと改善されていくであろうことを確信していた。
筆者はそうした確信を、行動計量経済学を基本とした学位論文を京都大学で取得した直後に留学したスウェーデンのイエテボリ大学心理学科での心理学者達との数々の共同研究を通して持つに至った。そしてスウェーデンから帰国して以降はその確信の下、社会的ジレンマに関わる様々な理論的実践的な研究を推進した。
本書はそうした当時の諸研究をとりまとめたものであった。
そしてそれは筆者がその後出版した各種の著作における一作目にあたる文字通りの「処女作」としてとりまとめられ、出版されたものであった。
筆者はこの「処女作」にとりかかった当初、本書を通して主流派経済学の欺瞞を明晰に確証してみせるのだという思いを強く持っていたのだが、本書執筆を進めるにつれてそのポテンシャルはただ単に経済学の欺瞞を明らかにするという程度のものに留まるものではないという思いを次第に強くしていった。そして最終的に筆者は、次の結論を導いた。
「社会的ジレンマ解消のために最も必要とされているのは,人々の“公共心”の活性化である」
この結論に基づき、筆者は次の一文で本書を閉じるに至った。
「(社会的ジレンマ研究を推進することで得られる)総合的,多角的な諸研究の知見を重ね合わせることではじめて,社会的ジレンマを乗り越える糸口を見いだし,“倫理的社会”の到来をわずかなりとも手助けできる日が来るかも知れない。その日に向けて,我々がなすべき努力は,未だ数多く残されている。」
……
藤井聡・クライテリオン編集長日記 ~日常風景から語る政治・経済・社会・文化論~
藤井聡(京都大学教授・表現者クライテリオン編集長)