… … …(記事全文3,500文字)岸田総理の米国訪問。国賓として招かれた今回の訪問は、ウクライナ戦争や中国・北朝鮮との緊張が高まる極東情勢に対応するために日米同盟のさらなる強化を図るためのものと言われています。
しかし、「同盟の強化」と言えば聞こえはいいですが、実際は米国が日本を「ATM」として利用するために国賓扱いして岸田総理を招いて、そこで日本にウクライナ支援させようとしているのではないか、という警戒論が日本国内で様々に論じられています。
言うまでも無く、岸田総理も外務省も完全に馬鹿で阿呆でなければ、米国がそういう要求をしてくることは百も承知な筈です。
「独立国家の外交」というなら、米国がそういう要求をしてきたとしても、それを飲むか飲まないかはあくまでも日本の国益に叶うか否かを全ての基軸において判断すべきもの。ウクライナ支援は米国を喜ばせ、日中有事の際に米国がサポートする可能性を少なくとも引き下げはしないというメリットがある一方、対露関係を悪化させ、日中有事が起こった際の極東状況を悪化させるリスクがあります。したがって日本はそれらのメリットとリスクの双方を見据えた外交交渉をせねばなりません。
勿論、そうした状況にあることを知悉する米国は、「日本は、全面的なウクライナ支援は日ロ関係を毀損し、日本の国益を毀損すると考えているだろうから、容易くはウクライナ支援には加担しないだろう」と想定しています。だから、米国は日本のウクライナ支援を引き出すために日本のご機嫌を取ろうといているわけです。これこそ、総理を丁重に「国賓」として米国にお迎えする事にした、米国側の根本的理由です。
決して日本が立派な国だから、岸田氏が立派な人だから国賓として迎えるわけではないのです。米国政府の振る舞いは全て米国国益のためのものであるわけで、今回の国賓待遇も、そうすることが米国国益に叶うからそうしているだけなのだ、という点を忘れてはなりません。
ましてや日米安保条約・日米地位協定・日米合同会議が存在しており、それ故、日本が米国に事実上「隷属」している国である事は、米国要人ですらしばしば日本を「保護領」と呼んだりすることがある程の公知の事実。
その「宗主国」の立場の米国が日本を国賓として呼ぶということはいわば、スクールカースト「トップ」の人気ものが、カースト「底辺」のさえない生徒を自宅の豪邸に賓客として招くようなもの。韓流三文ドラマによくある設定ですが、そういうときの「トップ」はつねに、その「底辺」を上手く使って搾取してやろうと言う下心があるのです。
そして、その下心に気付かずに「トップ」の厚遇に舞い上がってしまうような馬鹿な「底辺」は、利用され尽くされ、全てを搾取され、最後に捨てられるのがおち、です。
だから、「底辺」の立場の人間は、妙に「トップ」が媚びてきたならば、最大限の警戒心を持たねばならないのです。
…ということで、日本も「阿呆」じゃ無ければこれくらいの事を理解して、米国の国賓待遇のオファーを受けねばならないわけです。そして、
「米国は、日本からウクライナ支援を引き出すために、『君と僕は特別な関係だ!だから国賓で招いたんだよ!だから、困ったときは助け合おうぜ!例えば中国や北朝鮮やロシアが日本に直接攻めてきたら日本を米国が助けてやるよ、約束するよ。で、今、俺達はウクライナ支援を日本にしてもらいたいんだよ、頼むよ』と、嘘八百を並べながら頼み込んでくるだろう。
しかし、どんなに米国がコチラに媚びを売ってきたとしても、頼み込まれても簡単にそれには乗らないで、ウクライナ支援について米国の依頼を全部うけないようにしないといけない。極東の複雑な状況を全て踏まえた上で、慎重に要求に応えるようにせねばならない」
と、十分な警戒心を持っておかねばならないわけです。
しかし…以下の写真を目にした時に「こりゃだめだ…」と落胆された方は多かったのではないかと思います。
これは、バイデン大統領が普段利用している「ビースト」という専用車の中のツーショット。外国首脳がビーストに同乗するのは異例のことであり、バイデン大統領の「厚遇」っぷりを象徴する事例と言えます。以上の背景を理解していれば、こうやってバイデン大統領がチヤホヤしてきた時にこそ舞い上がらずにしっかり警戒し、そして品良く上手に感じよく対応せねば…と考えねばなりませんが、この写真からは、そうした警戒感も緊張感も全く感じられません。
そして、一番ダメなパターンである…
藤井聡・クライテリオン編集長日記 ~日常風景から語る政治・経済・社会・文化論~
藤井聡(京都大学教授・表現者クライテリオン編集長)