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藤井聡・クライテリオン編集長日記 ~日常風景から語る政治・経済・社会・文化論~

藤井聡(京都大学教授・表現者クライテリオン編集長)

藤井聡

自民党「財政政策検討本部」講演報告 ~財務省と防災部局との対立は全く不要。互いに「協力」して国民の生命と財産と暮らし「財政」を守れ~

昨日の令和6年4月4日、自由民主党の政務調査会内に設置された「財政政策検討本部」(本部長・西田昌司参議院議員)での講演に呼ばれ、講演して参りました。

 

講演タイトルは、『巨大災害の経済財政被害と国土強靱化の減災財政効果』。

 

その内容は、先月に当方が小委員長を務める土木学会の委員会(正式名称は、国土強靱化定量的脆弱性評価委員会)が公表した、巨大災害が起こった場合の巨大被害と、それに対応するための国土教員か政策を行った場合にどれだけの被害が経済と財政の双方において軽減できるか、についての試算結果を報告する、というもの。

https://x.gd/4lClx

 

当方がお話しさし上げたひな壇には、財政政策検討本部長の西田昌司氏に加えて、幹事長の城内実氏、事務局長の中村裕之氏、顧問の萩生田光一氏、古屋圭司氏等が並び、会場には多数の自民党の国会議員の皆様が来られていました。

 

また、政府からは内閣府の経済社会システム担当の方や財務省の方々が臨席されていました。

 

おおよそ1時間強開催され、冒頭で西田本部長からの挨拶に引き続いて当方が30分程度話題提供を行い、残りの30分が質疑応答の時間でした。マスコミ関係者も多数出席されており、冒頭の当方の講演を聴講されていました。

 

当方のプレゼンのメインは、こちらの試算結果。

 

この試算結果は、首都直下地震等が発生した場合、被害額が1001兆円となると同時に、膨大な復興費と税収減が発生し、合計での財政被害が389兆円となる、等を示しています。

 

今回は財政政策検討本部、ということで、「財政被害」について詳しく解説しました。災害が起こると経済活動が低迷し、税収が減少する一方で、大規模な復興事業が必要となり、その結果、財政赤字が拡大することになります。東日本大震災時の復興事業と同程度の「水準」の復興が行われると想定した場合の復興事業費が353兆円で、税収が36兆円減少します。

 

その結果、合計の財政赤字拡大額(つまり、PB赤字拡大額、すなわち、国債発行額の増加)が389兆円になると試算されたわけです。

 

ただし、21兆円の事前対策(10兆円の新規道路整備と5兆円の道路強靱化対策、6.7兆円の港湾対策)を行えば、被害額が約4割削減され、同様に財政被害額も約4割圧縮することが可能となります。

 

それを各災害についてまとめたものがコチラになります。

 

首都直下地震については、21兆円の政府支出を行うと、政府の財政赤字が151兆円圧縮できる…ということは、要するに政府は、21兆円支出を拡大すると、収入が151兆円拡大する、という事。

 

つまり、21兆円の国債を短期的に発行しておけば長期的には発災時移行の国債発行額が151兆円圧縮できる、ということです。つまり、21兆円の先行投資を行えば、トータルで言えばその差し引きの130兆円分の国債発行額が圧縮されると言うことになるわけです。

 

このことは、財政再建のためには、防災をしないのではなく、防災を「する」ことの方が得策だと言うことです。逆に言うなら、短期的な出費を躊躇して防災をしなければ、防災財政はかえって悪化することになる、ということが示されたのです。

 

一方で、今回、試算対象とした各種のインフラ投資ですが、現状の実際の予算規模のペースでもし進めるとしたらどうなるかを試算したところ、首都直下地震については、以下の様な結果となりました。

 

 

つまり、今のペースで首都直下地震の被害の4割減を導く防災投資を進めると、実に55年から104年もかかってしまう!ということが分かったのです。

 

首都直下地震が55年、ましてや104年も待ってくれる可能性というのは、限りなくゼロに近いと言わざるを得ません…

 

別の言い方をしますと、もし21兆円の首都直下地震対策投資を「10年」で完了しようとした場合に必要な予算を想定すれば、現状の予算は、その僅か「1割」程度でしかないのであり、水準で言うと「10年で完了するために必要な予算」よりも「1.6兆円/年」も少ないと言うことが分かったのです。

 

さらに逆に言うと、この1.6兆円の追加予算が首都直下地震の対策の為に用意できるなら、21兆円の投資が10年で完了でき、それを通して、10年後以降の発災時に151兆円の財政効果を生み出すことが可能となる、ということが分かったのです。

 

土木学会の今回の試算は、このような恰好で、現状の予算の「脆弱性」を改めて浮き彫りにするものだと言えます。

 

今のような防災投資ペースであれば、我が国は、ここで試算された超巨大被害の数々を、ほぼ無為無策に近い状態で受けてしまう事になるのです。そしてそうなれば、国民の生命と財産と暮らし、そして国家財政に甚大な被害が生じてしまう事になるのです。

 

何と言っても、10年で完了させるために必要な予算の、僅か1割程度しか、実際に用立てられていないのですから、10年後に実際に発災すれば、現状の強靱化では、単純計算で言って、1割程度しか減災できない…と言うことになるのです…。

 

なお、今回の試算の重要なポイントは、防災投資の経済効果だけでなく、「財政効果」を推計した点にありますが、こうした「財政効果」は、何も防災投資に限った話ではなく、あらゆる道路インフラ投資、鉄道インフラ投資、港湾インフラ投資等においても想定され得るものです。

 

その点は、今回の報告書には記載されていませんが、当方が個人的に追記した下記スライドにて、「投資財政乗数」という概念を用いた解説いたしました。

 

要するに、例えば1兆円投資して、3兆円の財政効果があるなら、その投資財政乗数は3.0となる、というようなものです。首都直下地震では21兆円の投資で151兆円の財政効果が良きされますので(発災するケースを想定し、金利を考慮しなければ)その投資財政乗数は7.2となります。

 

いずれにしても、この投資財政乗数が1を超えるなら、財政当局としては、その投資を進めた方が財政を健全化する見込みがあるということで、その投資を決定すべきという事になります。一方で、1を下回るなら逆に、財政健全化の視点から言うなら、その投資は回避した方がよい、と言うことになります(もちろん、それでも便益が高いのならなすべき、という判断を下すべき時はあり得ます)。

 

したがって、政府投資においてはこれまで一般的な費用対効果分析が行われてきましたが、これからは、費用対効果分析に加えて、投資財政乗数を、事業推進の有無判断に活用するということが考えられるものと思われます。

 

この点を発表したところ、政府政府筋の皆様から、この考えの重要性を支持する声を多数いただきました。

 

いずれにしても、こうした投資財政乗数の議論ができるのも、土木学会で災害被害についてのシミュレーションシステムを構築していたからこそ、であります。今後はこうした定量分析を重ね、より合理的な防災を含めた各種インフラ投資を進めていくことの必要性を改めて感じた次第です。

 

そしてそれと同時に、こうした分析が可能となったことで、改めて、防災部局と財政部局の「協力」が必要であることを強く感じました。これまでは両部局はとかく「対立」的な関係で捉えられることが多かったわけですが、「財政効果」という一点を考えれば、両者は対立すべきでは全くなく、両者タッグを組んで「共同」していくことこそが、重要であることがハッキリと見えてきます。

 

この点を強調したところ、参加者各位からも、大きな拍手が沸き起こる程に大変に強い賛同が得られました。

 

こうした認識が、当該本部出席者の皆様と共有できたことは、今回の発表の大きな成果であったものと僭越ながら感じております。

 

後は、財政当局の皆様を含めた政府与党の皆様に、十分に合理的な国土強靱化についての政策判断を下されんことを、心から祈念したいと思います。

… … …(記事全文3,803文字)
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